今日の神坂課長は、久しぶりに相原会長と夕食をしているようです。

「会長、最近あまり私の席に来てくれなかったですね」

「忙しい人を邪魔しちゃいけないからね!」

「それ本心ですか? なんか嘘くさいなぁ」

「バレたか。実はね、姉の具合が悪くて、この2週間くらい実家に戻っていたんだよ」

「あ、そうだったのですか、すみません」

「いいの、いいの。一時はかなり危なかったんだけど、なんとか峠は越したみたいだからね」

「それは良かったですね」

「姉はもともとかなりオテンバな人でね。結構周りには迷惑をかけてきた人なんだよね。3度も離婚しているしね」

「バツ3ですか? 芸能人みたいですね」

「そんな姉が弱気になって、こんなことを言ったんだよ。自分はなにか良くないことがあると、すべて他人のせいにしてきた。自分は間違っていないって。でも、そうやって他人のせいにばかりしてきたから、結局、幸せな人生を送れなかったってね」

「矢印を自分に向けろってことですね」

「うん。姉にとっては僕はいつまでも弟なんだよね。お前は気をつけろって言うんだ。僕は、もう現役でもないし、もうすぐ75歳だよ。(笑)」

「でも、うらやましいですよ。俺の兄貴は先に死んじまったんで」

「ああ、そうだったね。ゴメンね。でもね、僕は姉からその話を聞いたときに、これは神坂君に話したいなと思ったの」

「えっ?」

「最近の神坂君は成長したから大丈夫だとは思うけど、ぜひ姉のメッセージを噛みしめてもらいたいな」

「会長・・・」

「やっぱり何ごとも自分次第だからね。自分の人生を動かせるのは自分だけだよ。いろいろと本を読んでいるようだけど、昔の偉い人がいかに自分に矢印を向けて成長したかを読み取ると良いんじゃないかな?」

「会長、ありがとうございます。なんか会長が兄貴に見えてきました・・・」

「神坂君、泣いてるの?」

「泣いてません。会長が目を瞑っている間に目薬をさしただけです」

「嘘くさいな」


ひとりごと

小生は、10月から新しい会社に務めます。

今の会社では、研修をとおして多くの言葉を伝えました。

その中で、ある後輩社員さんが、「矢印を自分に向ける」という言葉が自分の仕事の仕方を大きく変えた、と言ってくれました。

しかし、そんな偉そうなことを言った自分自身はどうなのか?

矢印をしっかりと自分に向けられているのか?

まさに自分を見つめ直す時のようです。


【原文】
自得は畢竟己に在り。故に能く古人自得の処を取りて之を鎔化(ようか)す。今人自得無し。故に鎔化も亦能わず。〔『言志晩録』第56条〕

【意訳】
悟りを得るということは、結局自分自身にかかっている。それゆえ、自得した人は、昔の人が自ら悟り得たことを更に溶かし込んで自分のものとする。ところが今の人は自ら悟ることがない。それゆえに昔の人が自得したことを溶かし込んで自分のものにすることができないのだ

【一日一斎物語的解釈】
己をよく見つめ直すことで、人間は成長する。古今の偉人がいかに自分を見つめ直して徳を磨いたかを学ぶべきである。


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