佐藤部長は、長谷川先生の自宅を訪れたようです。

「こうして長谷川先生の書斎にお招き頂いたときは、いつも驚くのですが、常に新しい本がたくさん積まれていますよね」

「ああ、今は便利だよね。amazonで頼めば、いつでも本が届くから」

「ビジネス系の新刊も読まれているのですね?」

「やっぱり偏ったものばかり読んでいると、頭が固くなるからね」

「現役を退かれた後も、まだまだ学問を追及し続ける長谷川先生には頭が下がります」

「『老いて学べば、則ち死して朽ちずだからね」

「『三学戒』ですね。しかし、先生は既に名を残されていますよ」

「医療は日進月歩だよ。あと10年もすれば私の仕事なんて、誰も特別視しなくなる。まあしかし、ここから先は医療人としてではなく、一人の人間として少しでも自分を練磨していきたいんだ」

「ああ、私も同じことを考えています。企業人の枠を超えて、一人の人間としてどこまで完成できるか。この年になるとそこが重要に思えてきます」

「うん、佐藤さんのそういう姿を見て、神坂君は見事に感化されてきたね」

「いえいえ、彼自身が目覚めたのです。今となっては本当に頼りになるマネージャーに成長してくれました」

「はじめは苦労してたもんね!」

「はい、何日も眠れない夜を過ごしたこともあります。しかし、彼によって私も磨かれました」

「それは、佐藤さんが諦めず、逃げずに、彼と真剣に向き合い続けたからだよ。今の若い人は、人の短所をばかりを見て、すぐに判断を下そうとするよね。人の上に立つ人間は、部下の人生を左右する権限を握っていることに気づかなければいけないね」

「はい。私はまだ壮年におりますので、『壮にして学べば、則ち老いて衰えず』を意識して、学びを深めていくつもりでおります」

「神坂君が後ろから追いかけて来ているもんね」

「はい。まだまだ抜かれるわけには行きません。(笑)」


ひとりごと

この章句は、通称「三学戒」と呼ばれています。

岐阜県恵那市岩村町にある岩村歴史博物館の敷地内には、一斎先生の銅像とともに、この三学戒の句碑が建てられています。

もしかしたら、『言志四録』1133章のうちでも、もっとも有名な章句かも知れません。

先日、小生も転職の報告をしに、一斎先生にお会いしてきました。

小生もまだまだ壮年です。

老いて衰えないように、精進して参ります。


【原文】
少にして学べば、則ち壮にして為すこと有り。 壮にして学べば、則ち老いて衰えず。老いて学べば、則ち死して朽ちず。〔『言志晩録』第60条〕

【意訳】
若くして学べば、壮年時代になって良い仕事ができる。壮年時代に学べば、老いて衰えない。老いてなお学べば、死んでもその名が朽ちることがない。

【一日一斎物語的解釈】
若くして学べば、壮年時代になって良い仕事ができる。壮年時代に学べば、老いて衰えない。老いてなお学べば、死んでもその名が朽ちることがない。


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