今日の神坂課長は、営業2課の善久君と同行しているようです。

「課長、私も営業として3年目です。そろそろ一人前の営業マンに見られたいのですが、どこに行っても若手扱いなのが悔しいです」

「実際に若手じゃないか!」

「そうですけど、やっぱり悔しいです。どうやったら一人前の営業マンだと見てもらえるのでしょうか?」

「3年やそこらで一人前の営業マンになられたら、俺の今までは何だったんだってことになるだろう」

「課長の3年目のときはどんな感じだったのですか?」

「俺の3年目か? どうだったかな。どうやったら早く仕事を終わらせられるか、そればかり考えていたな」

「売上や利益について考えていなかったのですか?」

「考えていないわけじゃないけどさ。早く終わらせて、先輩や同期と飲みに行きたい気持ちのほうが強かったから・・・。なんだよ、その冷たい視線は!」

「そんな人でも課長になれるんですね」

「やかましいわ! そのまま今日まで来たわけじゃねぇぞ」

「なにか転機があったのですか?」

「あれは確か4年目の終わりの頃だったかな。大きな商談を決めることができて、院長先生にお礼のご挨拶をした時にな。院長から『こちらこそ、ありがとう。神坂君のお陰で、良い内視鏡室が完成したよ』って言われたんだよ」

「お客様から『ありがとう』と言ってもらえるなんて、すごいですね」

「うん。その時、俺はビックリしたんだ。買ってもらった営業マンに、買ってくれたお客様がお礼を言ってくれるなんてことがあるのかってな」

「うれしいですよね」

「うれしかったなぁ。その時、営業という仕事のすばらしさに気づいたんだ。直接、お客様からお礼を言ってもらえるのは、営業という仕事の
特権だぜ」

「そうですね」

「だからって、その時の俺は、褒めてもらおうとか、一人前の営業マンに見てもらいたいなんて、少しも思わなかった」

「・・・」

「ただ、目の前の仕事を真剣にやったんだ。やりがいのある大きな仕事だったからさ。善久、一人前になるための近道はないような気がするな。とにかくやるべきことをコツコツと積み上げていくしかないんじゃないか?」

「そうですね」

「お客様のお困りごとを解決するために真摯に取り組む。それがお前が成長するための一番堅実なやり方なんじゃないか?」

「課長、ありがとうございます。3年目の頃には酒を飲むことしか考えていなかった人でも課長になれたんですもんね。少し安心しました!」

「お、お前、人の話をちゃんと聞いていたのか?」


ひとりごと

どんな仕事でも、その道を究めようと思えば、三十年は掛かると言われます。

その間、試行錯誤を繰り返しながら、学び、気づき、実践を繰り返すしかありません。

成功に近道はないのでしょう。

近道を探せば、かえって回り道を歩むことになりかねません。

一歩ずつ、歩みを進めていきましょう!


【原文】
義を精にして神に入るは、燧(すい)もて火を取るなり。用を利して身を安んずるは、剣の室に在るなり。〔『言志晩録』第61条〕

【意訳】
『易経』にある「精しく道理を研究し、神妙なる奥義に至る」とは、火打石から火を取り明かりをつけるようなものである。同じく「日常の仕事を有利に処理し身を安泰にする」とは、護身用の剣を部屋におくようなものである。これほど間違いのない方法はない

【一日一斎物語的解釈】
短期間で大きな結果を得ようとすれば、かえって困難に出会うことになる。仕事を進める上では堅実なやり方が一番である。


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