今日の神坂課長は、佐藤部長の部屋にいるようです。

「一斎先生って、仏教とか石門心学とかにはかなり厳しいことを言っていますね」

「そうだね。一斎先生の真意は計り知れないけれど、まあ儒学に専念させるための言い方なのかもしれないよ」

「ああ、なるほど。そういう見方もあるのか?」

「真相はわからないけどね」

「そういえば、最近会社のそばにできたうどん屋さんですけど、もともとあったチェーン店のうどん屋の隣に出店して、最初は高級路線を行くような感じでしたが、最近方向を見失っている気がするんですよね」

「ああ、あの絵描きさんが始めたお店ね」

「そうです。最初は肉盛うどんだけで勝負するみたいな雰囲気だったのに、今ではセットものがあったり、カレーライスまで始めましたよ」

「そうなの? あぶない兆候だね」

「お客さんが入らないのはわかるけど、だったら最初からうどん屋の隣に出店しなきゃいいのに、って思いますよね」

「たしかにね。(笑)」

「おまけに値段も行くたびに下がっている気がします。たしか最初は肉盛うどんが850円くらいしたのに、いまではかけうどん200円なんてメニューまであります」

「神坂君が言うように方向性を見失っているかもね」

「やっぱり一斎先生が言うように、軸をブラしてはいけないんですよね」

「ああ、そういうつながりなのね? なぜ突然、うどん屋さんの話が出てきたのかと思った。(笑)」

「そもそも出店前のマーケティングの問題だとは思いますが、このままいくとラーメンも売り出すんじゃないかとこっちが心配になります」

「私も一度行ったときに店主さんと話をしたけど、絵が売れないからうどん屋を始めたんだけど、うどんも売れないって嘆いてたよ」

「やっぱりあれもこれもと手を出すと良いことはないですよね。そういう意味でまずはひとつのことを徹底的に磨く必要があるんだろうな」

「そうだね。わが社は医療商社といっても零細企業だからね。総合商社にはどうやっても勝てない。専門性をもって戦っていくしかないからね」

「ウチの場合、それが内視鏡ですね。やはりメンバーに内視鏡に関してはスペシャリストになってもらわないとダメですね」

「メーカーさんの教育プログラムみたいなものがあれば、積極的に受けさせたら?」

「そうします。わが社も先生方から方向を見失っていると言われないように!」


ひとりごと

かつて、コア・コンピタンスという言葉が流行しましたが、やはり自社の強みは何か、自分の強みは何かをよく見極めることは重要ですね。

企業も一個人も、弱みを補う必要はありますが、それ以上に強みを磨いてとんがる部分を持つ必要があります。

すべてが広く浅い知識だけの営業マンより、なにかひとつのことに極めて詳しい営業マンの方が、お客様からは信頼を得られるものです。


【原文】
世に一種の心学と称する者有り。女子・小人に於いては寸益無きに非ず。然れども要するに郷愿(きょうげん)の類たり。士君子此を学べば、則ち流俗に汨(しず)み、義気を失い、尤も武弁の宜しき所に非ず。人主誤って之を用いば、士気をして怯懦ならしむ。殆ど不可なり。〔『言志晩録』第67条〕

【意訳】
世の中に石門心学と称する学問がある。これは女性や子供には多少学ぶべき点もあるかも知れない。しかしこの学問は要するに八方美人的なところがある。官職にある人や教養のある人がこれを学ぶことは、流行に飲み込まれ、正しい心が失われるので、武士にとっては最も宜しくないものである。誤って君主がこの心学を採用すれば、武士の士気を貶めて臆病者にさせてしまうだろう。全くもって不適切である、と一斎先生は言います

【一日一斎物語的解釈】
幅広くいろいろなことを学ぶことは、悪いことではないが、自分の主張に一貫性を欠く懸念がある。ひとつ軸を定め、それを補う形で他のものを吸収するという姿勢が重要であろう。


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