今日の神坂課長は、内視鏡メーカーO社の中堅社員・桜井さんと同行しているようです。

「神坂さん、実は私、昇格試験の真っ最中なんです」

「へぇ、さすがは上場企業だね。昇格試験なんてものがあるんだ」

「主任格の一次試験は論文なんですよ。いま、論文を仕上げているところです」

「論文? それは大変だな。上司に見てもらっているの?」

「それが、上司も見てくれるというから見てもらってはいるのですが、私にはずっと尊敬して慕っている先輩がいまして、その人にも見てもらっているんです」

「指導者が二人いると混乱しない?」

「そこなんです! 二人から全く違うアドバイスを頂いていて、結局論文を2パターン書いています」

「それは良くないんじゃない? 時間も分散してしまうじゃない」

「はい。おまけに頭もパニックになってきて・・・」

「絶対やっちゃいけないのは、ニコイチだと思うよ。どちらかを捨てて、どちらかを選ばないとね」

「はい。どうしようかなぁ」

「桜井君は二人のうちのどっちの意見を聞きたいの?」

「それは、先輩です!」

「それなら、上司に頭を下げて、『申し訳ありませんが、私は〇〇さんにみてもらいます』って正直に言うべきだよ」

「そうしたいのですが、直属の上司ですから・・・」

「でも、桜井君の人生は、桜井君自身が決めるべきだと思うよ」

「私の人生・・・か」

「もし今回の件でなにか文句を言ったり、冷たく当たるような上司なら、所詮その程度の人だよ。御社は幸い転勤があるから、ずっと同じ上司に仕える必要はないんだしさ」

「神坂さん、ありがとうございます。そうしてみます。たぶん、今の上司はそんなに人間が小さい人だとは思わないので」

「うん。俺にも経験があるんだけど、たくさんの意見を聞いたり、本を読んだりすると、かえって迷うことってあるよね。そういうときは、それを混ぜ込ぜにしてしまうより、その中のこれだと思う意見や本を選んで、それを実践する方が間違いがないよね」

「そうですね。神坂さんに相談してよかったです」

「昇格がすべてではないけど、チャンスは活かさないとね。昇格試験がんばってね!」


ひとりごと

今日の章句はかなり限定的な内容であるため、拡大解釈をして物語を作ってみました。

博く学ぶことはとても大切ですが、散漫になったり、かえって本質を見失うという危険性も秘めています。

まずは、ひとりの師、ひとつの思想、一冊の本から学び始める方が、結局は早くマスターできるのではないでしょうか?


【原文】
明季、林兆恩は三教を合して一と為す。蓋し心斎・龍渓を学んで而も失せし者なり。此の間一種の心学の愚夫愚婦を誘う者と相類す。要するに歯牙に足らざるのみ。〔『言志晩録』第68条〕

【意訳】
明代末期の林兆恩は、儒教・教・教を融合してひとつの教えとしている。思うに、陽明学左派の王艮(心斎先生と呼ばれた)・王畿(龍渓先生と呼ばれた)の学説を学び、しかもそこから異説を唱えた。これはわが国において、石門心学が一般大衆を誘い込んだことに相似している。要するに、問題するに値しない学問である

【一日一斎物語的解釈】
多くの理論や考え方を学ぶことは良いことだが、各々の矛盾をよく整理して自分のものとするのは極めて難しい。まずは、だれか一人の師について学ぶべきであろう。


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