今日の神坂課長と善久君が会議室で打ち合わせをしているようです。

「A医科大学の内視鏡室看護師の夏川さんは、すごく無表情で、何を考えているのかをつかみづらいのですが、そういう人と接するにはどうすれば良いのでしょうか?」

「そういう人いるよな。その人が主任さんか? それは大変だな」

「他人事みたいに言わないでください。本当に悩んでいるんですから」

「ははは、ごめん。その人はあまりしゃべらないだろう?」

「はい、こちらから話しかけても、一言二言、ポツリと話すくらいで・・・」

「一番難しいタイプだな。とはいえ、主任さんなわけだから、内視鏡室のことについてはいろいろ悩み事やお困り事があるはずだ。それを見つけ出すのが一番良いだろうな」

「お困りごとかぁ・・・」

「あとは、その夏川さんと仲の良い看護師さんから情報を聞き出すのも手だな」

「誰が仲が良いのかなぁ?」

「善久、どちらにしても、営業マンの立場で夏川さんの心を推し量ろうとしても難しいだろう。もし、自分が夏川さんの立場だったら、内視鏡室をどういう風に運営していこうと思うか、それを考えてみるべきだと思うぞ」

「相手の立場に立つということですね?」

「お前ももう3年目だし、そういう見方で内視鏡室をいろいろと観察することもできるようになっているはずだ」

「そうですね、そういう見方で内視鏡室を観察したことはなかったです。どの商品を切り替えてやろうかとか、次は何を売り込もうかとか、そういう視点でしか見ていませんでした」

「営業マンだから、もちろんそういう視点は必要だ。だけど、そういう一方通行の視点ばかりだと、お客様の心はつかめないよ」

「そうですね。今日、ちょうど新しい内視鏡のデモで立ち会いをします。そのときに、自分が内視鏡室の主任になったつもりで、いろいろと観察してみます」

「きっとヒントが見つかるはずだ!」

「ありがとうございます。なんかワクワクしてきました!!」


ひとりごと

相手の立場に立つ、といっても、実際にそれを実践することは容易なことではありません。

ある程度、相手の仕事内容や性格をつかめていなければ、推量は当てずっぽうになるでしょう。

まずは相手の置かれた環境やその人の性格を把握することに努めましょう。

その後に相手の立場に立てば、その人の心を推し量っても大きく外れることはなくなるはずです。


【原文】
目に覩(み)る者は、口能く之を言う。耳に聞く者は、口能く之を言う。心に得る者に至りては、則ち口言う能わず。即(も)し能く言うとも、亦止(た)だ一端のみ。学者の逆(むか)えて之を得るに在り。〔『言志晩録』第73条〕

【意訳】
自分の目で見たものは、口でうまく説明することができる。また、耳で聞いたことも、うまく説明することができる。ただし、心に自得したものについては、口でうまく説明することが難しいものである。もし説明できたとしても、ほんの一端を説明できたにすぎない。このことから、学問をする者は、自らの心で相手の心を推し量り、その意を悟らねばならない

【一日一斎物語的解釈】
心の内というものは、本人でさえ上手く説明できないものである。このため、他人の心を理解するためには、自分の心に問いかけ、推測をせざるを得ない。


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