今日の神坂課長は、A県立がんセンターの多田先生を訪ねたようです。
「神坂、この前お前が教えてくれたデバイスは良かったよ。かなり手技時間を短縮できた。ありがとう」
「それは良かったです。多田先生には中途半端な製品は薦められませんから」
「まあな、俺は納得しなければ、新しいデバイスは使わない主義だからな。患者をモルモットにするわけにはいかないだろう?」
「おっしゃるとおりです。でも、他社さんもそうですけど、売上のことしか考えていない営業マンは意外と多いですよ」
「俺の場合は、そういう奴を一発で出禁にするけどな」
「私もなんどか出禁寸前になりましたからね」
「佐藤さんに何度も助けてもらったな、お前は」
「はい。あの頃は自分の売り上げのことしか考えていませんでした」
「あの頃、お前に教えてやったよな」
「はい。寝ている間を無駄にするなと言われました」
「よく覚えているな。どんな悪い奴でも寝ている間は悪いことは考えていないんだ。なぜなら、人間は本来善の心を持っているはずだからな」
「だから、寝る前に何をすればお客様のためになるかを考えてから眠りにつけと言われました。不思議なことに、そういう習慣をつけてからは、朝目覚めたときに、新しいアイデアが生まれてくることがありました」
「人間の臓器というのは寝ている間もちゃんと動いてくれているんだ。だからこそ、俺たちは朝目覚めることができる。脳みそも同じだ。寝る前に情報をインプットしておけば、しっかりアウトプットしてくれるんだよ」
「本当に不思議ですよね。実は、ちょっとおふざけで、寝る前に悪いことを考えてから寝てみたことがあったんです」
「お前なぁ・・・」
「でも、それに関しては朝起きてからも何も進んでいませんでした。まるで、脳が勝手に悪い思考を回避してくれたみたいに」
「そういうことだ。だから言っただろう。寝ている間に悪いことは考えられないって」
「なにごとも自分で試してみたい質なもので・・・」
ひとりごと
人間は眠らなければ生きていけません。
しかし、寝ている間もすべての臓器はしっかりと活動してくれています。
では、睡眠時間とは何のためにあるのでしょうか?
もしかすると、起きている間に起った悪い出来事をすべてリセットして、良い心身の状態に戻すためにあるのかも知れません。
【原文】
誠意は夢寐(むび)に兆す。不慮の知、然らしむるなり。〔『言志晩録』第82条〕
【意訳】
真の誠は眠っている間に、その兆しが見えるものである。これは考えずとも自然に発揮される知能がそうさせているのであろう。
【一日一斎物語的解釈】
人間は寝ている間には悪いことは考えないものだ。

