今日の神坂課長は、営業部の緊急会議に参加しています。

どうやらA医科大学病院の内視鏡室で大きなクレーム事象が発生したようです。

「大累、これはマズいな。もしかすると一ヶ月分の画像データが録画されていないかもしれないということだろう?」

「そうなんです。雑賀はしっかりと録画できることを確認して修理品を納めています。録画されていないことが判明した後の確認でも正しく操作すれば録画可能な状態だったようです」

「ということは、看護師さんの操作ミスの可能性が高いということか」

「私は雑賀を信じたいです。雑賀の言う通りなら、看護師さんの操作ミスを疑うしかありません」

「難しい対応を迫られるな」

「はい。いつもお世話になっている辻さんという看護師さんが録画担当です。辻さんの責任にするのは心が痛みます」

「しかし、ウチの説明不足となれば、賠償責任を問われる可能性もあるだろう?」

「はい。それは避けたいところです」

「部長、どうしましょう?」

「『自ら反りみて縮ければ、千万人と雖も吾れ往かん』だ。雑賀君はしっかりと説明したと言っているなら、そのことをしっかりと病院関係者に説明した上で今後の解決方法を探るしかないだろうな」

「そうですね。よし、大累。とにかく現場に行こう。雑賀が孤立無援の状態にあるのを救ってやらないとな」

その日の夜遅く、神坂課長と大累課長が雑賀さんを連れて戻ってきました。

「神坂君どうだった?」

「なんとか、解決できました。辻さんが自分の非を認めてくれました。雑賀にはいつもお世話になっているし、たしかに説明は聞いたと」

「やはり操作ミスだったの?」

「はい。画像選択の切り替えボタンを押し忘れていたようです」

「辻さんは大丈夫なの?」

「実は院内の画像の管理状況を調べたところ、直近の3ヶ月分はサーバに動画を保存していることがわかりました。そこからドクターが必要としている動画を取り出すことができました」

「それはよかった! 雑賀君、ご苦労様だったね。ひとりで不安だったでしょう?」

「いえ、大累課長が私を信じてくれていると思っていましたから、不安はなかったです!」

「雑賀・・・」

「よし、少しほとぼりが冷めたら、辻さんを誘って食事会を開こうじゃないか。な、大累」

「神坂さん、いいですね! 雑賀、辻さんの予定を確認しておいてくれな!」


ひとりごと

一斎先生が取り上げたこの孟子の言葉は、ひとりで難しい仕事に挑戦する人の背中を押してくれます。

かつての維新の志士たちも、この言葉に大いに勇気づけられたようです。

正解は常に多数決の中にある訳ではありません!

人生には、自分が信じた道を愚直に進まねばいけない時があるはずです!!


【原文】
「自ら反(かえ)りみて縮(なお)ければ」とは、我れ無きなり。「千万人と雖も吾れ往かん」とは、物無きなり。〔『言志晩録』第99条〕

【意訳】
『孟子』公孫丑章句上には、「自ら反りみて縮ければ、千万人と雖も吾れ往かん」とある。「自ら反りみて縮ければ」とは、無我の境地である。また「千万人と雖も吾れ往かん」とは、何物もその身を縛るものはないので、無物の境地だといえる

【一日一斎物語的解釈】
無我の境地と無欲の境地をもって仕事に当たれば、困難をも乗り越えることができる。


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