今日の神坂課長は、営業2課の石崎君と商談の打合せをしているようです。

「石崎、P社の動きはつかんでいるのか?」

「当然ですよ! 彼を知り己を知れば、百戦して危うからずだ、って課長が教えてくれたじゃないですか」

「えらい自信だな。それで、P社はどういう手を打ってきているんだ?」

「エコー装置との抱き合わせですね。エコーの価格をドンと下げて全体を安く見せてきています」

「なるほどな。それに対してお前はどうするつもりなんだ?」

「姑息な手は使いません! 私は院長先生の信頼を得ていますので、堂々と内視鏡だけで商売するつもりです!」

「おいおい、それはダメだろう! ウチもエコーを担ぐべきだろう?」

「大丈夫です! お任せください」

「本当に大丈夫なのか? 正直に言うけど、相当心配なんだけど・・・」

その日の夜、石崎君が帰社しました。

「石崎、どうだった? しっかり注文をもらったか?」

「課長、あの院長はとんだタヌキ爺です! 石崎君は頑張ってくれているけど、値段が高すぎるからゴメンね、と言われました」

石崎君はかなりご立腹の様子です。

「だから、言ったのに。やっぱり、エコーの提案もした方が良かったんだろう?」

「そうみたいです。信頼を得るのって難しいですね」

「今朝、『彼を知り己を知れば、百戦して危うからず』って言ってただろう。実は難しいのは敵を知ることではなく、自分を知ることだと言われているんだよ」

「そうなんですか?」

「お前は院長の信頼を得ていると思っていた。しかし、実際には価格差を埋めるだけの信頼を得てはいなかった。やや自分に甘い評価を下して
しまったということだよな?」

「結果的にはそういうことになりますね」

「まあ、お前はこれからの営業マンだ。これはとても良い経験になったはずだ」

「でも、もう負けは決まってしまいました・・・」

「大丈夫だ! 実は、院長の奥様に電話しておいた。もし、そういうことになったら、もう一度提案を持っていくから、院長にうまく話をして
くれって頼んでおいたよ」

「マジですか! それはズルいですよ! それならそうと言ってくださいよ」

「お前、俺がフォローしてやったのに、ズルいとはなんだ! よし、今日はしっかりお説教だな」

「あ、それはまたにしてください。そうとわかれば、今からエコーの見積りを持って、もう一回行ってきます!」

「あいかわらず生意気なクソガキだな!!」


ひとりごと

孫子の兵法の数ある名言の中でも、最も有名な言葉のひとつでしょう。

しかし、この順番に注意が必要です。

孫子も、彼を知る以上に己を知ることの難しさを指摘するために、己を知ることを後に置いているのです。

一斎先生は、他人には春の風のように暖かく接し、己には秋の霜のように対処しなければいけない、と言っています。

自分を知るのは本当に難しいですね!


【原文】
彼を知り己を知れば、百戦百勝す。彼を知るは難きに似て易く、己を知るは易きに似て難し。〔『言志晩録』第103条〕

【意訳】
『孫子』の名言に「彼を知り己を知れば、百戦百勝す」とある。彼つまり敵(相手)を知ることは難しいようで簡単であるが、自分を知るということは容易なようで実は難しいことだ

【一日一斎物語的解釈】
敵を知る以上に自分を知ることは容易ではない。


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