今日の神坂課長は、同業F社の市川さんとN市立大学病院内科外来前の待合いで談笑しています。

「そういえば、市川さん。御社の玉川君は元気でいいですね。ドクターにもドンドン積極的にPRをしているので、感心しますよ」

「ははは。そう見えますか? それは良かった。実はあいつ、入社当時は本当に人前で話すのが苦手でね。面接をして何を質問しても、ほとんど答えが返ってこなかったんですよ」

「へぇー、とてもそうは見えないけどなぁ。なにか、秘策でもあるの?」

「秘策はないですよ。ただ、これはマズいと思って、新人の年は毎朝、朝礼で1分間スピーチをさせたんです」

「毎朝!?」

「そう。スピーチをしたら、メンバーみんなでフィードバックをしてね。そうしたら1年目が終わる頃からメキメキ成績が上がり始めました。だから、スピーチをさせたのは良かったのかなと思っています」

「素晴らしいね。ウチもやってみようかな?」

「会話力は営業の基礎的な技術のうちでも最重要ですからね。それに、スピーチのネタを調べることで、いろいろな知識も身についていくようです」

「なるほどなぁ」

「ところで、神坂さんは課長さんですよね? 相変わらず現場でバリバリやっているんですね。うちの課長はほぼデスクに座っていて、指示をするだけですよ」

「デスクに座って指示をするだけで、組織が動くならそれが一番じゃないの? 残念ながら俺はそれが苦手でね。現場の臭いを感じていないと、まともな指示ができないタイプだからさ」

「現場の臭いか、それは重要ですよね」

「俺は、現場に行けなくなって、陣頭指揮を取れなくなったら引退するよ。デスクに座っているだけなら、ただのポンコツになってしまうからね」

「この前、オタクの善久君に会ったんですけど、神坂さんは自分が困ったときにはすぐに同行してくれるから心強いと言ってましたよ」

「善久がそんなこと言ってたの?」

「ええ、自分も将来はああいうリーダーになりたい、と言ってましたね」

「あいつ、俺にはそんなこと一度も言ってくれたことないのにな」

「照れくさいんでしょう。でも私も、陣頭指揮を執るということは大事なことだと神坂さんから教わりましたよ」

「それしかできないだけなんだけどね。でも、そう言われるとうれしいな。市川さん、コーヒーでも奢るよ!」


ひとりごと

それぞれの職種には、絶対に磨くべき技術があるはずです。

営業においては、やはり会話力・話術でしょう。

また、解決すべき課題は現場にあります。

リーダーとなり、人の上に立ったとしても、現場から遠ざからないようにすべきでしょう。


【原文】
国初の武士は、上下皆泅泳(しゅうえい)を能くし、調騎と相若(ひと)し。今は則ち或いは慣(なら)わず。恐らくは欠事ならん。軍馬は宜しく野産を用うべし。古来駿馬は多く野産なり。余は少時好みて野産を馭(ぎょ)したりしたが、今は則ち老いたり。鞍に拠りて顧眄(こべん)する能わず。嘆ず可し。〔『言志晩録』第107条〕

【意訳】
江戸初期の武士は、上役から下級武士まで皆水泳が得意であり、騎馬の術と同様に修練していた。ところが今は泳ぎを習得しない。大事なことが欠落してしまった。戦につかう馬は野生の馬を用いるべきである。昔から優れた馬の多くは野生の馬であった。私は若い頃好んで野生の馬を馭したが、今は年老いてしまった。漢の馬援が老齢をおして出陣し馬上にあって周囲にその力を示したようなことはできなくなってしまった。残念なことだ

【一日一斎物語的解釈】
営業マンの基礎的な技術として、話術を磨くことは重要であるが、これを実践している営業マンは少ない。営業マネージャーは、メンバーにしっかりと話術を磨かせることを怠ってはいけない。また、営業マネージャー自身は、自ら率先して陣頭指揮を執ることを怠ってはいけない。現場から離れれば現場が見えなくなるものだ。


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