今日の神坂課長は、N大学病院の喫茶コーナーで同業の風間さんと談笑しているようです。

「そういえば神坂さん、聞いた? Y社の高橋さんがK社に移ったらしいよ」

「聞きましたよ。バリバリのライバル企業への移籍じゃないですか。いい根性していますよね」

「高橋さんは結構、ブラックな人だからね。でもさ、この業界ではそう珍しいことじゃないよね」

「みんな簡単に魂を売り渡し過ぎですよね!」

「ははは。さすがに魂までは売ってないとは思うけど、退職前に情報を大量に持ち出すなんてことは良くある話だね」

「垣根の低い業界ですから、なかなか防ぎようがないのでしょうけど、気に入らないな、そういう輩は!」

「とにかく、高橋さんがどこに狙いを定めて仕掛けてくるのか、Y社は戦々恐々としているらしいよ」

「スパイみたいなことはせずに正々堂々と戦いを仕掛けて欲しいですね」

「きれいごとじゃ動かないのが、この世界だよ。この際、K社の高橋さんと組んでY社を倒しにかかるか、Y社と組んでK社をブロックするか。俺たちも判断を迫られるねぇ」

「私はY社と組んで、K社を排除したいですね。やり方が気にくわないですから」

「神坂さんらしいね。しかし、Y社の牙城を崩すには大きなチャンスだよ」

「俺は正々堂々と戦います。誰がなんと言おうと!」

「ちょっと、俺を睨むのはやめてよ。俺が悪いことをしたわけじゃないんだから!」

「そうでした。これは失礼しました。(笑)」

「それなりに年を取ったとはいえ、相変わらず神坂さんに睨まれると、ゾッとするよ。あなたの目はカミソリの刃のように光っているからさ」

風間さんと別れた後、車を走らせながら、神坂課長はひとり考え込んでいます。

「ああは言ったけど、俺は果たしてずっと今の会社に居続けるのだろうか?」


ひとりごと

小生は、10月に同業の別会社に転職しました。

これまで懇意にしていたメーカーさんが敵になる立場になります。

もちろん、情報を持ち出すようなことは一切していませんが、先日のとあるイベントでは、だいぶ警戒されていました。(笑)

会社は移りましたが、小生は神坂課長と同じく、正々堂々と商売をしていくつもりです!


【原文】
余は往年、崎に遊び、崎人(きじん)の話を聞けり。曰く、「漢土には不逞(ふてい)の徒有りて、多く満州に出奔し、満より再び蕃舶(ばんぱく)に投ず。故に蕃舶中往往漢人有りて、之が耳目たり。憎む可きの甚だしきなり。今は漢満一家関門厳ならず。奈何(いかん)ともす可からず」と。此の話は徒らに聞く可きに非ず。〔『言志晩録』第118条〕

【意訳】
私は昔、長崎に寄って、長崎の人の話を聞いた。それによると、「漢の国には悪い輩がいて、多くは満州に逃走し、そして満州から外国船に乗り込む。だから外国船の中にはしばしば中国人がいて、西洋人は彼らをガイドや諜報員として使っている。大いに憎むべきことである。今は漢の国と満州国とは一家となって関所は厳重でなくなっているから、どうすることもできない」とのことであった。この話は聞き捨てならないことだ

【一日一斎物語的解釈】
営業マンの中には諜報員のような輩もいる。安易に情報提供せず、よく相手を見極めることだ。


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