今日の神坂課長は、営業2課の本田さんと同行しているようです。

「この仕事をしているとメーカーさんや競合他社のいろいろな営業マンにお目にかかりますが、中にはすごく知識があるのに、今一つ売れていない人がいますね」

「営業という仕事の難しいところは、知識と技術があれば売れるというわけではないところだよね」

「やっぱり才徳兼備でないといけないということですか?」

「そういうことになるだろうね。人たらしな営業マンは仕事以外のことでお客様と強固な関係を築くことができるからな」

「そこが一流と二流の分かれ目ということか?」

「そうだな。でも、清水みたいに圧倒的な知識と技術がある奴は売れるけどな。あいつに徳があるとは、本田君も思わないだろう?」

「え、まぁ、そうですね」

「これは佐藤部長の受け売りだけど、一斎先生はこう言っているそうだ。『才能があって度量がないと人を受け入れられない。度量があっても才能がなければ成果を出せない』ってね」

「どちらが欠けてもダメなのか」

「ただ、これには続きがあるんだ。『もし両者を兼備できないなら、むしろ才能を捨てて、度量を取れ』とね」

「どちらかといえば徳を取れ、ということですか?」

「そう。中途半端な知識と技術で立ち向かうくらいなら、人間力を身につけよ、ってことだね」

「私も一度くらいトップセールスの座を奪ってみたいと思っているのですが、たしかに清水さんに技術では勝てません。徳を磨いて勝負するのが良いのかな?」

「本田君はもともと人格者だから、清水とか俺が人間力を身に着けるよりは少ない努力で手に入るんじゃないのかな?」

「そうですか?」

「ただ、人間力を身に着けるためには、良き師が必要になる。俺の場合は、佐藤部長が人間学の師匠だな。本田君は誰かいる?」

「大学時代の恩師ですかねぇ? でも、私も佐藤部長や神坂課長から学びます!」

「いいね。佐藤さんからは良い点を、俺は反面教師としてやってはいけないことを学ぶと良いよ。(笑)」

「いえ、課長はご自身が思ってるよりは、ずっと人間力があると思いますよ」

「え、マジ? いやー、そうかな? そろそろランチの時間だから、うなぎでも食べながら続きを話すかね!」


ひとりごと

才徳兼備が無理なら、才より徳を磨け。

この言葉は、リーダー諸氏にとっては、重要な言葉ですね。

人を受け入れる度量がなければ、何事も成就しないということでしょう。

これからの時代は、ダイバーシティの時代です。

多様な人種と一緒に成果を出すことが求めらるリーダーにとって、心に留めておくべき至言でしょう。


【原文】
才有りて量無ければ、物を容るる能わず。量有りて才無ければ、また事を済(な)さず。両者兼ぬることを得可からずんば、寧ろ才を舎(す)てて量を取らん。〔『言志晩録』第125条〕

【意訳】
人は、才能があっても度量が無ければ、人を受け容れることはできない。逆に、度量があっても才能が無ければ、事を成就することはできない。仮に才能と度量の両者を兼ね備えることができないのであれば、才能の方を捨てて度量のある人物になろうではないか

【一日一斎物語的解釈】
立派な人となるには、才能と度量の双方を兼備する必要がある。しかし、どちらが大事かといえば、度量が才能に勝るであろう。


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