今日の神坂課長は、お得意先から帰社してデスクに座っているようです。

「神坂課長、今回の会議資料ですけど、いつもの資料とは別に作らなきゃいけないんですか?」
石崎君が不満そうです。

「そうだ。今回は総務部に提出だからな。前回の営業部の資料とは提出先が違うんだ」

「でも、ほとんど同じような資料じゃないですか! 統一できないんですか?」

「たしかに石崎の言うとおりです。最近、ウチの会社も資料作成が増えましたよね。中にはかなり似たような資料もあります」
本田さんも加勢しています。

「たしかにそうかもな。俺が若いころは資料作成なんてほとんどなかったし、そもそも会議も数えるほどだったからなぁ」

「マジですか? うらやましい! その時代に戻りたい!!」

「少年、その代わり、今よりよっぽど遅くまで働いたぞ。だいたい21時くらいまでは、病院にいたからな」

「それはキツいな。じゃあ、今の方がいいです」

「ちっ、根性のない奴だ。それが嫌なら資料くらい、文句を言わずに作れ!」

「ははは。相変わらず営業2課は、お互いに言いたいことが言い合えていて、気持ちがいいねぇ」
佐藤部長が通りかかったようです。

「佐藤部長は、資料の件をどう思います?」

「うん、石崎君の言うことは正しいかもね。提出先が違うからといって、似たような資料を別々に作るのは無駄だよね」

「そうですよねぇ・・・」
石崎君が嬉しそうに神坂課長を見つめています。

「なんだよ、小僧! 俺は別に、お前が間違っているとは言ってないだろう!」

「ウチも創業から25年近く経って、いろいろと部門も増えてきた。それとともに資料作成や会議も増えたよね。ここら辺で無駄がないか整理する必要はありそうだなぁ」

「働き方改革の問題もありますしね。ウチもまだまだ残業に関してはイエローゾーンにありますから」

「神坂君の言うとおりだね。間違ってはいけないのは、働き方改革というのは、働く時間を減らそうという取り組みではない。それは手段でしかない。目的は、コストパフォーマンスを上げること」

「つまり、今よりも少ない工数で、同じ成果を上げることですよね?」

「おお、石崎君。よく勉強しているね!」

「では、神坂君。次回の管理職会議で議題として取り上げてみよう」


ひとりごと

働き方改革とは、時短ではありません。

労働人口の減少を見越して、より少ない工数で大きなパフォーマンスを上げるための改革を指すのです。

そのことを取り違えている人はまだまだ多い気がします。

日本人は、生真面目なので、やり方を工夫する前に、とにかく徹夜してでも仕上げてしまおうという考え方をしがちです。

その積み重ねが今の歪みを生んだとも言えるでしょう。

そろそろ、効率と工夫に意識を向けても良いのではないでしょうか?


【原文】
歴代開国の初、人人自ら靖んじ、治務太だ間なり。昇平日久しければ、則ち上は台閤より、下は諸局に至るまで、規則完備し、簿書累堆し、愈(いよいよ)久しく愈多し。是(ここ)に於いて瑣末の武法、繁蕪子(はんぶ)に勝(た)えず。亦勢の必至なり。此の時唯だ当に務めて苛細(かさい)を除き、諸を簡浄に帰するを以て要と為すべし。平生著眼の処、蓋し此に在り。〔『言志晩録』第130条〕

【意訳】
古今の歴史上、開国当初には人々がみな安らかに落ち着いており政治上の事務もかなり閑散としている。太平の世が続くと、上は内閣から下は諸官庁に至るまで規則が完備し、帳簿書類が山積し、しかもそれらは日が経てば経つほど益々多くなっていく。このような些細な仕来たりが多くなり煩瑣となって乱雑にたえないことになるのも自然の趨勢である。このような時に、務めて些細なことは排除し、簡潔にしておくことが肝要である。平時において着眼すべき点はここにある

【一日一斎物語的解釈】
会社の歴史が刻まれると、次第に仕事も資料も増えてくるものだ。働き方改革とは、単に時短を目指すのではなく、コストパフォーマンスを上げることである。無駄を省き、常にシンプルな仕事を心掛けるべきだ。


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