今日の神坂課長は、営業2課の善久君と同行しているようです。

「課長は、私のことをどう見ているのかわかりませんが、私もトップセールスになりたいと思っています」

「石崎に負けない強い想いがあるということだな?」

「はい!」

「良いことだ。しかし、他にも手ごわいライバルがいるじゃないか?」

「願海ですね」

「彼は相当に腹の座った若者だぞ」

「はい。とても同期だとは思えません。そんなガンちゃんにも負けずにトップになるには、何を勉強したら良いのでしょうか?」

「勉強かぁ。もちろん製品のこと、医療手技のこと、ライバル会社のことなどは勉強すべきだろうけどな」

「けど?」

「一番大事なのは、そのお客様のお役に立ちたいと思う気持ちだぞ。できるだけ見返りを求めずに、とにかくお客様が困っていることがあるなら、一緒にそれを解決しようと力を尽くす。やりたいことがあるなら、どうやったら実現できるかを一緒に考える」

「あー、そういう点ではザキに負けてる気がします」

「たしかに、あいつはそういう気持ちは強いよな。こんなことを言うと自慢話みたいになるけどな。あいつは俺の若い頃にすごく似ているんだ」

「課長の若いころに?」

「俺はバカだからさ。売り上げを上げることより、お客様が喜んでもらえることの方がうれしくて、そういう仕事ばかりしていた。でも、今になって考えてみると、それが良かったのかもしれないな」

「課長にライバルはいなかったのですか?」

「大累をはじめとして同世代の仲間は何人かいたけど、俺は仲間は家族だと思っていたからなぁ。平社長がいつもそう言ってたから、俺はそう信じて仕事をしてきたなぁ」

「大累課長に勝ちたいとかは思わなかったのですか?」

「思わなかったな。大累が悩んでいたら、一緒に考えたし、大きなクレームのときは、一緒にドクターに謝りに行ったよ」

「上司でも、担当でもないのにですか?」

「うん。そんなこと関係ないじゃないか。会社のピンチは、家族のピンチだろう。それなら一緒にできることをやるしかないじゃないか!」

「私は根本的な考え方が間違っていたのかも知れませんね」

「ごめんな。これは自慢話ではないんだ。その頃、そうすれば売り上げが上がるとか、トップになれるとかを考えてやっていたわけじゃないからな。ただ、尊敬する社長のメッセージを盲目的に信じていただけのおバカな若者だったという話なんだ」

「いや、でもすごく理解できる気がします」

「ありがとう。善久も、もっとお客様と真剣に接してみたらどうだ? 仕事が面白くなるぞ!!」


ひとりごと

大学生の面接で、仕事で重要なことは何だと思うかと聞くと、かなりの確率で「信頼」と返ってきます。

しかし、信頼の意味を真に理解している若者はどれくらいいるのでしょうか?

トップで居続ける人は、お客様の信頼を見事に勝ち取っているものです。

それでもまずはがむしゃらにトップを目指すことは悪いことではありません。

トップに立てば、その座を守りたいと思います。

そう思えば、何が必要かが自ずと見えてくるものです。


【原文】
仕えて吏と為る者は、宜しく官事を視ること家事の如く、公法を守ること蓍亀(しき)の如く、僚友を待つこと兄弟(けいてい)の如くすべし。則ち能く職分を尽くすと為す。唯だ大臣の胸次は磊磊落落として、当に長松老獪(ちょうしょうろうかい)の風雨に振撼(しんかん)せられざるが如くなるべし。則ち其の治務必ずしも人後に在らず。〔『言志晩録』第132条〕

【意訳
仕官して役人になった者は、事務を執り行う際には自分の家庭の仕事をするように行い、公の法規を守ることについては、卜筮を以て占う時のように厳粛な態度で臨み、同僚の友との交際はまるで兄弟であるかのように仲良くすべきである。つまりは、よくその職分を尽くすことが重要である。ただ大臣ともなると、胸中には、いつも大きな志を持ち、瑣事にとらわれることなく、あたかも風雨に揺れ動くことのない高い松の木や檜の老木のごとくあるべきである。そのようであれば、政治上の務めは人に遅れをとることはなかろう

【一日一斎物語的解釈】
仕事を成功させるもっとも大きな要素は、人に対する思いやりである。しかし、重要なポジションにある場合は、感情を上手にコントロールして、情けにほだされて判断を誤ることのないように注意すべきだ。


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