今日の神坂課長は、平社長に呼ばれて社長室に居るようです。

「神坂、最近は難しい経営判断を迫られる案件が多くて、さすがの俺も疲れたな。そろそろトップを降りる時期かもな」

「社長がそんな弱気な発言をするなんて、めずらしいですね」

「社員は家族だ。お前も家庭を持っているよな。一家の大黒柱として、家族を路頭に迷わせないために難しい決断をする場面もあるだろう?」

「えっ、どうですかねぇ? あんまりそんな場面はないような・・・」

「ははは。お前はノー天気でいいな。やっぱりお前と話をしていると、一気に肩の力が抜ける感じがするよ」

「それは、褒めてくれているのでしょうか?」

「もちろんだよ」

「それなら、ありがとうございます。(笑) こんな私ですから、社長のような仕事は絶対にできませんよ。家族4人くらいなら、ノー天気でもなんとかなるでしょうけど、30人を超えるような所帯となると、それではダメでしょうから」

「ははは。まあ、そうだな。もちろん、俺にも信頼できる部下はたくさんいるが、最後の最後は自分独りで決めなければいけないんだ。眠れない日もあるぞ」

「お疲れ様です。やはり経営トップは孤独なんですね?」

「孤独だな。しかし、自分で選んだ道だからな。いまや、あれだけの家族がいるわけだから、少しでも良い方向に向くように判断力を磨いていくしかないな」

「私はとにかく現場をしっかりと守ります!」

「そうだな。お前は、若い頃は手の付けられないやんちゃ坊主だったが、昔からコンプライアンスに反するようなことはしなかったよな」

「贈収賄みたいなことは嫌いですからね。ただ、今はハラスメントの問題があります。パワハラについては、かなり危ないかも知れません」

「たしかにな。最近の若者は温室育ちが多いからな。そこは気をつけてくれよ」

「はい!」

「ただ、お前は人の心を和ませる不思議な力を持っている。お前がいると組織がまとまるんだ。まさにお前は現場のリーダーには最適な人物なんだよ」

「そうなんですか? そういう力があるのですかねぇ? 自分ではわかりません」

「古代の中国は、礼と楽を重んじた。つまり、しきたりと音楽が重要だったわけだ。しきたりは人の行動を円滑にし、音楽は人の心を円滑にしたんだ」

「なるほど」

「お前はその礼と楽を上手に使いこなせるリーダーなんだろうな」

「あ、社長。もう、褒めるのはそれくらいにしてください。褒められることに慣れていないので、なんか身体が痒くなってきました」

「ははは、それは何のアレルギーだ?」


ひとりごと

仕事に限らず、たった独りで決断しなければならないときは孤独を感じるものですね。

その際に大事にすべき点は、その決断によって影響を受ける人達にとって何が最適かを求めることです。

ベストが見つかれば良いのですが、最悪でもベターを見つけ出す必要があります。

しかしそんな悩みも生きていればこそ!

楽しみながら難しい判断と取り組んでみましょう!!


【原文】
巌穴(がんけつ)の心を抱く者にして、以て台閤に居る可く、礼楽の実を得る者に対して、以て将帥に任ず可し。〔『言志晩録』第133条〕

【意訳】
山の岩窟に隠棲した賢者のような心持をもつ者であれば、内閣に列し天下の政治を執ることができる。また礼の制度に精通し、なおかつ心を和らげる音楽の活用法を知っている人物であって、はじめて大軍を統率できる将軍として適任だといえる

【一日一斎物語的解釈】
たった独りでも自分の信じた道を進むことができる人物なら、経営を任せることができる。法を遵守しつつも、人の和を大切にできる人は、リーダーとして最適だ。


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