今日の神坂課長は、A医科大学の駐車場で、同業Y社の赤尾さんと談笑しているようです。

「神坂さん、風通しの良い職場が良いなんて言いますけど、自由に意見を言える組織が、かならずしも良い組織とは限らないんですね」

「赤尾さん、どういうことですか?」

「同業のS医理器さんは、3年前に社長が会長に退いて、息子さんを二代目にしたでしょう」

「そうでしたね」

「二代目は、なんでも意見がいえる職場づくり、というのを目指したらしんですよ。そうしたら・・・」

「そうしたら?」

「先代には遠ざけられてきた連中が、うまいことを言って、新社長にすり寄ったみたいでね。先代の番頭さんを追い出してしまったらしいんです」

「それはダメですねぇ」

「そう。その結果、あの会社の売り上げはここのところずっと右肩下がりですよね」

「トップの器の大きさで、業績は大きく変わるんですねぇ」

「ジュニアはジュニアなりに、自分の色を出そうと必死だったんだろうけどなぁ」

「自由と規律のバランスというのは、思った以上に難しいですね」

「そこにいくと、神坂さんのところは安泰でしょう。この業界では、あり得ないくらい離職率が低いのが御社ですから!」

「どうですかね? ただ、たしかにウチには派閥のようなものはないですから、その点では安泰かもしれません」

「ウチは、2つどころか、3つか4つの派閥があるから大変ですよ。俺はアウトローなんで、どこにも所属していないですけどね。(笑)」

「少なくとも、自分自身が悪の道に誘い込むような洗脳社員にはなりたくないですよ」

「それは大丈夫じゃない? 神坂さんも俺も、裏表のないタイプだからさ」

「お互い、アウトローですからね!」


ひとりごと

風通しの良い職場といっても、何を言っても良いわけではないでしょう。

まず、お互いの信頼関係を築いていくことが先決かも知れません。

信頼し合える仲間なら、何を言い合っても、決して間違った方向に行くことはないでしょう。


【原文】
国に道有る時は、言路開く。慶す可きなり。但だ怕(おそ)る、功利の徒、時に乗じて紛起群奏(ふんきぐんそう)し、其の実或いは大いに相左(しょうさ)する者有るを。深く察せざる容(べ)からず。〔『言志晩録』第134条〕

国に正しい道が行われている時は、下の者も自由に発言することができる。これは喜ぶべきことである。ただ危惧するのは、功利を目的とする人達がそれに乗じて、あちこちに出現して色々と奏上し、中には大いに行き違いのある者が出てくることである。この点は大いに注意しなければならない

【一日一斎物語的解釈】
自由闊達な意見が交わせる職場は理想的ではあるが、悪の方向に洗脳する輩には注意が必要である。


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