今日の神坂課長は善久君を叱っているようです。

「善久、お前に依頼した仕事はまだ終わってないのか? たしか12月の中旬くらいに依頼したよな?」

「はい、今やっているところです。今週中には終わらせます」

「別に年末年始にやれとは言わないけどさ、そこを差し引いても、ちょっと遅すぎないか?」

「課長からのご依頼なので、ミスがあってはいけないと思いまして・・・」

「うん、その気持ちは嬉しいんだけどな。いくらでも時間をかけてよい仕事ではないだろう」

「すみません」

「善久、拙速優先という言葉を知っているか?」

「聞いたことないです」

「そうか? 何度か会議でも言ったと思うんだけどなぁ。要するに、80点主義で仕事をするということだ。時間をかけすぎてライバルに出し抜かれたりしたら、その仕事はパアになってしまうだろう?」

「はい」

「慎重に仕事をすることは大事だけど、期限をしっかりと決めることが大事だ。100点を取ろうとすると、どうしても仕事が遅れがちになる」

「課長からいつまでに終わらせろという指示をもらっていないのですが・・・」

「まぁ、そうだな。指示をしなかったことは謝るよ。でもな、指示がなければ自分から聞くことも大切だぞ」

「はい、今後は気を付けます」

「俺はもし部下から依頼されたことがあれば、最優先で終わらせることを心掛けている。以前に、平社長がそうしていると聞いたからな」

「あー」

「どうした?」

「そういえば、梅田君からお願いされたウチが扱う主力商品のリストもまだ作っていませんでした」

「梅田はがっかりしているぞ」

「そうですね。僕はダメ社員ですねぇ・・・」

「慎重さは決して悪いことではない。ただ、お前の場合は慎重すぎるところがあるから、それを意識して、少しでも前倒しで仕事をすれば良いんじゃないか?」

「それで良いのでしょうか?」

「良いんだよ。だって、もし俺がお前みたいに慎重に仕事をしろと言われても無理だからな。俺はなんでも素早く処理しようとするが、そのせいでミスも多い。そういう欠点を意識して、仕事によってはより慎重に処理することにしているんだ」

「ありがとうございます。よし、ちょっと頑張って、課長の仕事は今日中に終わらせます!」

「いいね! でも、なるべくミスしないようにな」


ひとりごと

すべての仕事には期限があります。

期限のない仕事は仕事ではありません。

限られた納期の中でいかにベストを尽くすかが重要ですが、その際100点を取りに行くと、ライバルに先を越されるかも知れません。

やはり、拙速優先で、80点を取りに行くという意識で仕事をすべきでしょう。


【原文】
上官、事を我れに属(しょく)せば、我れは宜しく敬慎鄭重なるを要すべし。下吏、事を我れに請わば、我れは宜しく区処敏速なるを要すべし。但だ事は一端に非ざれば、則ち鄭重にして期を愆(あやま)り、敏速にして事を誤るも、亦之れ有る容(べ)し。須らく善く先ず其の軽重を慮り、以て事に従うを之れ要と為すべし。〔『言志晩録』第157条〕

【意訳】
上司が私に仕事を依頼してきた際には、私は深く慎んで丁寧な仕事をすることを心がける。また自分より役職が下の人に仕事を頼まれた際は、私は期限を決めて敏速に処理することを心がける。ただし仕事というのは一律のものではないので、慎重すぎて期限に遅れてしまったり、早く処理をし過ぎてミスをすることもあり得ることである。すべてにおいてまず仕事の重要性について熟慮した後、仕事に着手することが必要であろう

【一日一斎物語的解釈】
上長から依頼された仕事は丁寧かつ慎重に処理すべきであり、後輩や部下から依頼された仕事はスピーディに処理すべきである。ただし、仕事の軽重をよく鑑み、臨機応変な対応が必要なことは言うまでもない。


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