喫茶コーナーで営業1課の新美課長と廣田さんが話をしているようです。

「課長、他人に流されないようにするのは難しいですね」

「廣田君は優しいから人の意見を聞きすぎてしまうんだろうね」

「自分の軸がしっかりしていないからだと思います。課長はどうやって自分の軸を作り上げたのですか?」

「どうやって、って聞かれると即答できないものだなぁ。私も若いときは廣田君と同じように悩んだよ。なんて言ったって、周りには神坂さん、大累さん、清水さんと図太い軸をもった先輩がいたからねぇ」

「ははは。あの3人の方々は強烈ですもんね」

「そうだよ。海千山千の先輩と肩を並べて仕事をするのは本当に大変だった。あの人たちはとにかく決断が早いんだ」

「やっぱり軸がしっかりしていると、決断力が上がるんですね?」

「ただ、神坂さんの決断は極端なのが多くて、本当にそうかなぁと思うことも度々あったけどね。(笑)」

「そうですか。では、課長も私と同じように悩んだのですね?」

「うん。そんなときに、佐藤部長にこう言われたんだ」

「一斎先生ですか?」

「ご名答! 一斎先生は、『独りでいるときは大衆の中にいるように行動し、大衆の中にいるときは一人でいるかのように行動せよと言っていると教えてもらった」

「現状と真逆の環境を想定するのか?」

「うん。私もどちらかというと他人の意見に流されやすいところがあったから、大衆の中にいるときに一人でいるかのように行動しろというアドバイスは参考になったな」

「特に周囲と違う意見を持っているときは、なかなか主張し切れません。自分を信じるということですか?」

「そうかもね。たとえ自分以外の全員が自分と違う意見だとしても、自分が善と信じるなら貫き通す覚悟が必要だね。別に無理をして他人を説き伏せる必要はないんじゃない?」

「ああ、そうか。自分の意見を主張するときは、ついつい相手を説き伏せようとしてしまいます。でも、相手が自分の意見に同調してくれるかどうかは、他人の課題ですもんね? まず、強い覚悟で主張することが大事なんですね」

「そういうことだよ。だって、神坂さんを説き伏せようなんてしようものなら・・・」

「ヘックション!」

「噂をすれば、噂の人がやってきましたよ」

「おー、お前ら朝から悩み事相談会か? しみったれてるねぇ。それにしても、またどこかの女が俺のことを噂しているのかな? さっきからくしゃみが止まらないんだなぁ」

「神坂課長はモテますもんね!」

「お、廣田君。君は人を見る目が確かだな。コーヒーを奢ってあげよう!」

「さすが! 決断が早いですね?」

「えっ、なんのこと?」


ひとりごと

他人の意見に流されず、自分の意見を主張することは、容易なことではありません。

特に、相手が自分より目上の人であったり、上位職者であればなおさらです。

そのときは、独り静かな環境にいるつもりで、まず自分の意見を主張してみましょう。

その意見を採用するか否かは、他人の課題なのですから。


【原文】
慎独の工夫は、当に身の稠人広坐(ちゅうじんこうざ)の中に在るが如きと一般なるべく、応酬の工夫は、当に間居独処の時の如きと一般なるべし。〔『言志晩録』第172条〕

【意訳】
独りのときを慎む慎独の工夫は、いつも自分の身が大衆の中にあるかのように振舞うことである。人との応対の工夫は、独り静かに暮らしているときと同じように振舞うことである。

【一日一斎物語的解釈】
独りでいるときこそ、大勢の人と一緒にいることを想定し、大勢の人といるときは、独り静かに暮らしていることを想定して行動するとよい。


hitori_suki_man