今日の神坂課長は、総務課の大竹課長と談笑中のようです。

「そういえばタケさん、お母さんの具合はその後どう?」

「落ち着いているよ。ただ、以前より電話の回数が増えたかもな。俺の身体のことばかり気にするんだよ」

「親からしたら、いつまで経っても子供は子供ですから」

「でも、身体のことなら、俺のことより自分のことを心配して欲しいよな」

「身体髪膚、親から受け継いでいないものはない。だから、それを傷つけないようにして過ごすのが最大の親孝行なのだそうですよ」

『孝経』だね。敬愛する藤樹先生の愛読書だよ

「ああ、そうでしたね。私はサイさんから教えてもらったんですけどね」

「吾が身はそのまま親の身でもある、という教えだね。身に染みるよ」

「もうひとつ言うと、心は天からの借り物なのだそうです」

「なんだ、心も自分のものじゃやないの?」

「そういう考え方があるということですよ。自分の心はそのまま天につながっているということらしいです」

「そうなると、俺たちの身体には自分のものは何一つないということか。だからこそ、自分の身体や心を大切にしないといけないんだね」

「そうです。タケさんは身体の食物はしっかり取っていると思いますけど、心の食物はちゃんと取っていますか?」

「なんだよ、心の食物って?」

「読書ですよ!」

「うわぁ、痛いところを突かれた。しかし、そういう神坂君だって、ちょっと前までは本なんか読んでなかったくせに」

「そうです、あやうく心が餓死するところでしたよ。タケさんの心はもう枯れてしまっているかもしれませんね?」

「やめてよ! ところでさ、心の食物もいいけど、心の飲物はないのかな?」

「それってもしかして?」

「そう、アルコール!」

「タケさん、あなたの心はもう死んでいます!」


ひとりごと 

親から受け継いだ自分の身体は、自分の身体であって自分の身体ではないのかも知れません。

同じように、自分の心も天からの借り物なのだそうです。

天から借りた心も、親から譲り受けた身体も、できることなら大きな傷をつけることなくお返ししたいですね!


【原文】
人は当に自ら吾が心を礼拝し、自ら安否を問うべし。吾が心は即ち天の心、吾が身は即ち親の身なるを以てなり。是を天に事うと謂い、是を終身の孝と謂う。〔『言志晩録』第177条〕

【意訳】
人は自分自身の心を敬い拝み、その安否を尋ねるべきである。私の心はそのまま天の心であり、私の体は両親の体でもある。このように考えてわが身わが心を大切にすることを、天に仕えるといい、終身の孝行という

【一日一斎物語的解釈】
真の修養とは自分自身の心を敬うことであり、真の孝行とは自分自身の身体をいたわることである。


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