今日の神坂課長は、佐藤部長と同行中のようです。

神坂課長がハンドルを握りながら、話しかけています。

「この前、あやうく『ちさと』を出禁になりそうでした」

「何をやったの?」

「何もやってませんよ。ただ、ちょっと男の浮気心について大累と話していたら、ママが本気でキレました」

「ははは。ママはそういう話が嫌いだからね。それは話す場所を間違えたね」

「めちゃくちゃ怖かったですよ。あまりにも怖かったから、もう一軒行くのもやめて、そのまま帰りましたから」

「一斎先生は、色気と食欲のような大きな欲望はまだ制御できるけど、小さな欲望は自分でも気づきにくいから、意外と抑えるのが難しい、と言っているよ」

「私にはその大欲も抑えるのは相当困難ですけどね。ところで、小欲ってどんな欲なのですか?」

「たとえば、道端で100円を拾ったら、神坂君は交番に届ける?」

「まさか! ラッキーって感じでいただいちゃいます」

「そういうのが小欲だよ。その100円だって本来は誰かの落とし物であって、自分のものではないよね。でも、100円くらいならいいかと考えてしまう。あまり罪悪感を感じないんだね」

「たしかにそうですね」

「もし100万円を拾ったら、神坂君は同じようにラッキーと思って自分のものにする?」

「いやいや、さすがに100万円は警察に届けます」

「そういうものだよね。だからこそ、小欲を抑えるのは難しいと一斎先生は言うんだ」

「実は今朝、喫茶コーナーの自販機でコーヒーを買ったんですけど、お釣り受けのところになぜか400円くらい余分に硬貨があったので、そのままいただいちゃったんですよ。帰ったら総務に届けます。もしかして部長、そのことを知ってました?」

「ははは。まさか! 偶然の一致だよ」

「ドキッとしましたよ。たしかに小欲を抑えるのは難しいわ!」


ひとりごと

なにごとも、大きなものより小さなものを実行することの方が難しいのかもしれません。

道の真ん中に大きな段ボールが落ちていれば、それを隅によける人は多いでしょう。

ところが、道にごみが落ちていても拾う人は稀です。

だからこそ、小さなことを積み重ねることが必要だということのようです。

難しい!!


【原文】
欲に大小有り。大欲の発するは我れ自ら知る。己に克つこと或いは安し。小欲は則ち自ら其の欲たるを覚えず。己に克つこと卻(かえ)って難し。〔『言志晩録』第180条〕

【意訳】
欲望には大欲と小欲がある。大欲が発現したときは自分でもそれを把握できるので、それを克服することは比較的易しい。しかし小欲の場合は、その発現を自覚できないので、それを克服することはかえって難しい

【一日一斎物語的解釈】
自分でも欲だと気づかない小さな欲望こそ制御しづらいものだ。


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