今日の神坂課長は、総務部の西村部長と一杯やっているようです。

「ウチのカミさんが、何を思ったか、突然文鳥を飼い始めたんです」

「手乗り文鳥ってやつかい?」

「はい。ある日家に帰ったらいきなり鳥かごが置いてありました」

「ははは。それはビックリだね。神坂君が飲み歩いてばっかりで奥さんの相手をしてあげないから、奥さんは寂しかったんだろう」

「それはないと思いますよ。亭主元気で留守が良いっていうのが、ウチのカミさんのスタンスですから」

「古いな」

「古い人に言われたくないわ。でも、その文鳥のお陰で、カミさんはだいぶ元気になりました」

「やっぱり女性には母性本能があるのかねぇ」

「人間には本来、愛敬の心が備わっているんだそうです。愛敬の心というのは、天地生々の心のことを指すのだ、と一斎先生は言っています」

「神坂君、サトちゃんみたいなこと言うな」

「草木を育てたり、ペットを飼ったりするのは、その天地が万物を育てるのと同じ心なんだそうです」

「ということは、人間は女性に限らず母性本能のようなものを持っているということか? ところで、神坂君はその文鳥をかわいいと思っているの?」

「いや、別に」

「ああ、愛敬の心が腐り始めているんだなぁ。ギャンブルのやり過ぎで、本来あるはずの愛敬の心が欲に侵されてしまったんじゃないか?」

「失敬ですね! たしか、西村さんもペットが嫌いだと言ってませんでした?」

「え、そ、そんなこと言ったかなぁ? 私は猫でも犬でもそばに寄ってきたら、しっかり撫でてあげるけどな」

「嘘だな!」

「なんでわかるんだよ!」

「西村さんは嘘を言う時に、瞼が大きく開く癖があるんです。今は相当大きく瞳孔が開きました」

「さ、さすがは営業のプロだな。人の癖を見抜くのはお見事だ」

「ほら、やっぱり図星でしょう。それより、西村さんの愛敬の心は、きっと酒の飲みすぎで酒浸しになって、瀕死の状態にあるんじゃないですか?」

「やかましいわ!!」


ひとりごと

1593日のときにも記載しましたが、小生の妻が文鳥を飼い始めました。

その後、一羽では満足できなかったのか、二羽目の文鳥を購入しました。

動物があまり好きではない小生ですが、たまの休みでカミさんが仕事に出ているときは、文鳥の相手をします。

しかしながら、あまりかわいいとも思えず、面倒くさいなと思いながら相手をしている自分がいます。

愛敬の心が腐り始めているのでしょうか?


【原文】
愛敬の心は即ち天地生生の心なり。草木を樹藝し、禽虫(きんちゅう)を飼養するも、亦唯だ此の心の推なり。〔『言志晩録』第188条〕

【意訳】
愛敬の心とは天地が万物を生々化育する心だともいえる。草木を植えて育てたり、鳥や虫を飼育するのも、この心を推進したものなのだ

【一日一斎物語的解釈】
愛敬の心を育むのには、植物を育てたり、ペットを飼育すると良い。それによって、人間に本来備わった、天地が万物を育む心を学ぶことができるのだ。


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