「嘘だろう! なんでだよ!!」

営業2課の石崎君が電話を切った後、叫び声を上げました。

「なんだ、なんだ、少年。何があったんだ!」

「神坂課長、信じられません。澤上内科の院長からの電話で、内視鏡の注文をキャンセルしたいと言ってきました」

「マジか? 理由は?」

「F社の価格が思った以上に安かったので、そちらに変えたいと」

「発注しておいてそれはないよな。常識を疑うな」

「本当ですよ。昨日、納品日も決めて握手までしたのに!!」

「O社にもう一度価格対応をお願いするか?」

「いやー、あの金額ですよ。多分、ムリだと思います」

「だよな。それにそういうお客さんって、仮にこっちが値を下げても、相手が下げたらまた浮気するだろう」

「たぶん、いや絶対そうです!」

「お前としては、これ以上やることがないということだな?」

「そうですねぇ・・・。この件に関しては、思い当たりません」

「それなら、キッパリ諦めよう。残念だけど、自分の身に降りかかる出来事というのは、自分の思い通りにはならないからな」

「どうしたら、なるべく思い通りになるのでしょうか?」

「それは神のみぞ知るだよ。ただ、悔いが残るような仕事をしないことだろうな」

「どうしてですか?」

「悔いが残るということは、まだ自分のやるべきことをやり切っていないということだろう。いわゆる『人事を尽くして天命を待つ』という領域に達していないわけだ」

「そうですね」

「モノであれば、本気で欲しいと願えば手に入らないこともない。しかし、コトに関しては、自分の力ではどうしようもないことが多い。そういうものだ」

「でも、やっぱり悔しいです。悔し過ぎて腹が減ってきました・・・」

「なんだよ、その物欲しそうな眼は?」

「・・・」

「わかったよ。ちさとに行きたいんだろう? 連れてってやるよ」

「奢りですか?」

「当たり前だ!」

「本当だ。今欲しいと思ったことを願ったら、手に入りました」

「そういうことじゃないんだけどなぁ・・・」


ひとりごと

「人事を尽くして天命を待つ」。

言い古された言葉ですが、実際に人事を尽くしたと言える仕事がどれだけできているかと考えると、恥ずかしくなります。

それでいて、自分に不利益なコトが起こると、運の悪さを嘆き、他人を責めます。

人間とは勝手な生き物です。

あ、もし皆さんは違うのであれば、申し訳ありません・・・。


【原文】
物、其の好む所に集まるは人なり。事、期せざる所に赴くは天なり。〔『言志晩録』第189条〕

【意訳】
物が好むところに集まるのは、人間がそうするのであって人為的だといえる。一方、事が思いもよらないところに向うのは、天の所業であって人間にはどうすることもできない

【一日一斎物語的解釈】
自分が手に入れたいと思うことは、それなりに集めることはできても、自分に降りかかる出来事というものは天の仕業であるから、思うようにコントロールすることはできない


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