今日の神坂課長は、大累課長とランチ中のようです。

「俺の同級生が、今年の四月から部長になるんですよ。あいつ、俺より馬鹿だったのに、信じられませんよ」

「勉強ができるできないは関係ないんじゃない? それを言ったら俺もお前も課長になったことさえ奇跡だぜ」

「神坂さんと一緒にしないでくださいよ。神坂さんの母校よりは俺の出身大学の方が偏差値は上ですから」

「お前は小さい男だね。人を学歴とか地位で判断するなんていうのは、ちっぽけな人間のやることだ」

「だって悔しいじゃないですか!」

「人生はただ一回のマラソン競争だ、と言った偉人がいる。まだ、俺たちはレースの中盤を走っているんじゃないの?」

「はぁ?」

「要するに、その同級生が今先を走っているからといって、ゴールまで前にいるとは限らないということだよ!」

「ああ、なるほど。また抜かせばいいのか」

「そういうことだ。だけど、お前も人の上に立ったんだから、他人と地位や富を比べる競争から抜け出す方がいいぞ」

「神坂さんは、そういうことは考えないんですか?」

「俺は昔っから考えないな。だって、そんなもの自分の力だけじゃどうしようもないじゃないか。それに俺は地位や富が欲しくて仕事をしているわけじゃないしな」

「じゃあ、何のために仕事をしているのですか?」

「実はこれといった明確な理由は見つかっていないんだけどな。ただ、俺みたいな男を拾ってくれた平社長への恩返しのためという思いは強いな」

「なんか、格好良すぎません?」

「馬鹿、俺は元々カッコいいんだよ」

「・・・」

「急に聞こえないフリをするな! とにかくだ、その同級生にお祝いの花でも送ってやれよ」

「え、なんでですか?」

「妬むより祝う方が気持ちがいいし、天はそういうお前を見て、お前にもチャンスをくれるかもしれないぞ?」

「祝う気持ちかぁ・・・」

考え込む大累課長の横で神坂課長がスマホをいじっています。

「大累、そいつの名前と会社の住所を教えろ」

「な、なんで?」

「花キューピッドで手配するからだよ! それから代金の4,000円もよこせ」

「え、3,000円の花束じゃないですか? それに送料は無料になってますよ」

「今回のコンサル代として、ここのお代も頂戴するんだよ」

「抜け目ないな、このオッサンは!」


ひとりごと

自ら貧乏を求める必要はありませんが、富を追い求め過ぎるのも、さもしい人生になってしまいます。

自分の分際というものを認めるのは、時に辛いことでもありますが、分相応に生きる覚悟が必要です。

少なくとも周囲の人と比較して一喜一憂するレベルからは脱却したいですね。


【原文】
富人を羨むこと勿れ。渠(か)れ今の富、安(いずく)んぞ其の後の貧を招かざるを知らんや。貧人を侮ること勿れ。渠れ今の貧、安んぞ其の後の富を胎(たい)せざるを知らんや。畢竟天定なれば、各々其の分に安んじて可なり。〔『言志晩録』第190条〕

【意訳】
富のある人を羨んではいけない。その人の今の富がどうしてその後の貧乏を招かないといえるだろうか。貧しい人を侮ってはいけない。その人の今の貧乏がどうしてその後の富をはらんでいないと言えるだろうか。結局天の定めであるから、自分の分際に安住していれば良いのだ

【一日一斎物語的解釈】
貧富などというものは、一時のものである。それは自分の力だけではどうにもならないことである。自分より地位や富のある人を妬み、自分より地位や富の低い人を侮る行為は、厳に慎まねばならない。


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