今日の神坂課長は、佐藤部長と「季節の料理 ちさと」に来たようです。

「ちさとママ、生2つね。あとは、おススメの品を適当に!」

「神坂君、ウチは適当に注文をしてもらうお店じゃないの! ちゃんと今日のメニューから選んでちょうだい」

「なんだよ、面倒くさい店だなぁ」

「はい、ウチは面倒くさい店でございます」

「じゃあ、季節のお通しと山菜の天ぷら、揚げ出し豆腐、モツ煮込みでお願い。部長、これで良いですか?」

「うん、神坂君にお任せします。(笑)」

「そういえばこの前、マンションの隣人が宝くじに当たったらしいんですよ。金額は教えてくれなかったですけど、かなり高額みたいです」

「ほぉ、それは凄いね」

「それを元手に夢だった書斎を手に入れたらしいんです。ちょっと離れた場所に別に部屋を借りたらしいんですけど、羨ましいですよね」

「神坂君も書斎があるんじゃなかったっけ?」

「ないですよ、自分の狭い部屋に本とCDが大量にあって、その隙間で寝ているって感じですから、とても書斎とは言えません」

「そうなのか。私はひとりだから、今は小さな書斎がある。神坂君もお子さんが巣立てば、書斎を持てるよ」

「憧れるなぁ。低音の効いたスピーカーから流れる渋いブルースを聴きながら古典を読む。その傍らには高級ブランデーが置いてある。うわぁ、最高だなぁ。きっと一生手に入らないなぁ。もっと金持ちに生まれたかった!」

「ははは、だいぶ一人の世界に入り込んだね。しかし、他人のことはわからないものだよ。良いところしか見えないからね。お金持ちにはお金持ちの苦労もあるみたいだし」

「そうなんですかね?」

「こうやっておいしい料理とお酒を少々飲める、こんな平凡な毎日が実は素晴らしいんじゃないかな。私は大きな病気をしたから、健康の有難さが身に染みるよ」

「そうでしたね。そっか、いくらお金があっても体調を崩せば使い道がないですからね」

「平凡の有難さを噛みしめようじゃないか」

「そうですね。ちょっとしみったれた店ですけど、ここは酒も料理も旨いですからね」

「こら、神坂! しみったれた店ってどこのお店のこと?」

「うわっ、ママ。いつの間にここにいたの?」

「・・・」

「そ、そんなに睨まないでよ。そんな怒り狂った顔より、平凡ないつもの顔の方がマシだよ!」

「神坂!!」


ひとりごと

他人の芝生は青く見えるものです。

しかし、どんな幸せそうに見える人にも、なにかしら辛い過去や背負うものがあるものではないでしょうか?

日々を平凡に生きられることは、決して悪いことではありません。

いや、むしろ感謝すべきことなのでしょう。

平凡、万歳!!


【原文】
人の禍(か)有るを見て、我が禍無きの安らかなるを知り、人の福有るを見て、我が福無きの穏かなるを知る。心の安穏なる処は、即ち身の極楽なる処なり。〔『言志晩録』第192条〕

【意訳】
他人が不幸な境遇にあるのをみて、自分が不幸でないことの安らかさを知り、人が幸福な境遇にあるのをみて、自分が幸福でないことがかえって心に穏やかさを与えていることを知る。心が安穏であれば、身体も楽しみを享受できるのだ

【一日一斎物語的解釈】
他人の幸不幸をみて、かえって平凡な日々を過ごせていることの有難さを知るべきだ。


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