「大累、雑賀の奴、今度は何をやらかしたんだ?」

「あー、神坂さん。お決まりの嫌味攻撃ですよ。あまりにしつこかったから、藤倉がブチキレたんです」

「へぇ、あのおとなしい藤倉がキレるなんて、珍しいな」

「それほどあいつの嫌味はえげつないんですよ」

部長室には、雑賀さんと藤倉君が呼ばれているようです。

「雑賀君、なぜ藤倉君が怒るようなことを言ったんだい?」

「藤倉はすぐにネガティブな考え方をするので、もっとポジティブにとらえた方が良いと思ったんです」

「それならなぜそう言ってくれなかったのですか? いきなり『お前は陰気で根暗で、一緒にいるとこっちまで気分が暗くなる』なんて言われたら腹が立つに決まっているじゃないですか!」

「陰気は連鎖するんだ! 迷惑なんだよ!」

「こらこら、二人とも落ち着いて!」

「・・・」

「雑賀君、君はよく後輩を観察できているね。ただ、藤倉君にポジティブになって欲しいなら、もっと背中を押すような言い方をして欲しいな」

「背中を押す言い方ですか?」

「そう。他人の気持ちを逆なでするようなことは、徳のある人がやることじゃないと一斎先生も言っている。徳がないだけじゃない、それで怨みを買って、災いが自分に戻ってくることもあると言っているよ」

「こういう言い方しかできないんですよね・・・」

「他人の良いところを探す習慣をつけてみたらどう? 藤倉君はどういうところが優れていると思う?」

「藤倉の長所ですか? そうですねぇ・・・。やっぱり笑顔はいいですよね。こいつが笑うと、周囲もあったかい雰囲気になります」

「いいね。それを使って、背中を押すような言い方をしてみてごらん」

「えー、むずかしいですけど、やってみます。『藤倉、お前の笑顔は他人を幸せにする不思議な力があると思うんだ。それなのに、そうやってネガティブなことを言っているときのお前はすごく表情が暗い。もったいないと思う。いつもその笑顔を振りまけるようなポジティブな考え方をして欲しいな』。こんか感じですかね?」

「藤倉君、今のを聞いてどう思った?」

「泣きそうです」

「えっ、なんで泣きそうなんだよ!」

「うれしくてですよ! そんな言い方をされたら心を鷲づかみにされちゃいます」

「ほらね。雑賀君は、他人をよく観察している。さらに言葉も巧みなんだ。その2つの長所を良い方に活かせば、君の周りに人はたくさん集まってくるよ」

藤倉君もうなづいています。

「なるほど。鍛錬してみます。藤倉、すまなかった。許してくれな」

「はい。これからもよろしくお願いします!」


ひとりごと

小生も、すぐに嫌味を言ってしまう癖があります。

どんなに視点が正しく、指摘が的を射ていても、嫌味という手法を使ってしまえば、想いは伝わりません。

小生はそれで多くの失敗をしてきました。

相手の長所を見る、「良いところ探し」をし、相手の短所については「リフレーミング」という手法を使って視点を変えて伝える。

そんな鍛錬を続けていますが、ちょっと気を許すと嫌味の虫が顔を出します。

精進あるのみです!


【原文】
人は好んで触忤(しょくご)を為す者有り。但だに失徳なるのみならず、怨を取るの道も的(あきら)かに此(ここ)に在り。戒む可きの至なり。〔『言志晩録』第195条〕

【意訳】
世の中には自分からわざわざ人の気持ちに逆らう人がいる。こういう人は、道徳に欠けるだけではなく、人の怨みを買うのも当然のことである。戒めとすべきことである

【一日一斎物語的解釈】
むやみに他人の気持ちを逆なですることは、徳がないだけでなく、結局は恨みを買い、思わぬしっぺ返しをくらうことにもなりかねない。


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