今日の神坂課長は、N大学病院の倉庫脇にある休憩室で同業者と歓談しているようです。

「神坂さん、K社の谷口さんって、腹黒いと思いませんか?」
Y社の若手・菊池君です。

「菊池君、あのおっさんには気をつけろよ。すぐに人を貶めるからな」

「わかってます。というか、すでに何度かやられてますから!」

「あの人は自分では悪口は言わないんだけど、他の人間に話させようとするよな」

「そうなんですよ! この前も、用度課の青野課長と谷口さんと3人で話していたときに、あるメーカーさんの話になりましてね。そうしたら、『おい、菊池君。例の話をしてやってくれよ』って言って、そのメーカーさんの担当者の不倫の話をさせられたんです」

「その話って、出どころは谷口のおっさんじゃなかったか?」

「そうです。僕も谷口さんから聞いたのに、それを僕に話させるんですよ。ズルいですよね!」

「それは危険だぞ。青野さんが別の業者やメーカーに話すときには、菊池君から聞いたって話になるからな!」

「うわぁー、そうですよねー。ヤバいなぁ、そのP社の澤井さんにはすごくお世話になっているし、全然悪い人じゃないんですよ」

「不倫しているのが本当なら、悪い人かも知れないけどな」

「まあ、それはそうですけど・・・。やっぱり嵌められたなぁ」

「俺はそういうことがあるから、あのおっさんとは距離を置いてるんだよ。あっちは気軽に話しかけてくるけど、こっちからは絶対に話しかけないぜ」

「僕もそうしようかなぁ」

そこに、H医理器の梶原さんがやってきました。

「おい、菊池君。あんまり人の悪口は言わない方がいいぞ。さっき、青野さんから聞いたけど、例の不倫話を言いふらしているらしいじゃないか」

「えー、もうそういう話になっているんですか!!」

さらに、F社の西山さんも合流しました。

「菊池君、聞いたよ。P社の担当者は不倫しているんだってな」

「あー、もう駄目だ。ぜったい、澤井さんの耳に入るな。終わった!」

「梶原さん、西山さん、その話の出どころは谷口さんなんだよ」
神坂課長が二人に事の顛末を話したようです。

「そういうことか。やっぱり一番最低なのは谷口さんだな。俺もあの人に何度か嵌められたよ」
梶原さんも憤慨しています。

「どんなことがあっても人の悪口は良くないな。とにかく谷口さんみたいな人間になったらお終いだ。気を付けよう!」


ひとりごと

こういう人って居ますよね?

自分は絶対に実行犯にはならず、人を使って悪事を進めるタイプの人です。

こういう人が真の悪人です。

しかし、少し拡大解釈をすれば、自分が嫌なことを他人、とくに部下や後輩に押し付けるというのも、同じ穴の狢かもしれません。

そう考えると、一つや二つ心当たりがありませんか?


【原文】
人有り自ら不好話を談ぜずと雖も、而も他人を誘動して談ぜしめ、己は則ち側(かたわら)に在りて、衆と共に聞きて之を快咲(かいしょう)し、以て一場の興を取るは、太だ失徳たり。究(つい)に自ら不好話を談ずると一般なり。〔『言志晩録』第196条〕

【訳文】
自分からは良くない話をしない変りに、他人を誘い出して話をさせ、自分は側にいて仲間と共に聞いて大笑いをして、その場の面白おかしくする者がある。こういう人間は大いに徳の欠けた人物である。結局は自ら良くない話をするのと何も変わりはしない

【所感】
人をそそのかして下世話な話をさせ、自分は聴く側に回って喜んでいるような人間は、最低の人間だ。


warumono