今日の神坂課長は、佐藤部長と同行しているようです。

「この前、Y社の菊池君と話していたんですけどね。K社の谷口さんは相変わらず人を貶めるようなことをしてるみたいです」

「ああ、谷口さんね。困った人だよね」

「いい年をして、陰口を言ったり、変な噂をばら撒いたり、本当に情けない人ですよ。ああなったらお終いですね」

「まあ、そうだけど、そうやって谷口さんのことを悪く言ってしまっては、神坂君も同じことをしていることにならないかな?」

「えっ、そう言われてみれば・・・」

「『書経』の言葉に、『人を玩べば徳を喪う』とある。もちろん、谷口さんはそうやって徳を喪い続けているんだろうけど、神坂君も気をつけないとね」

「たしかに、私も人を馬鹿にしたり、悪口を言ったりする傾向はあります。そういうことをすると、徳を喪うことになるのかぁ」

「うん。立派な人というのは、人の悪口を言わないものじゃない?」

「そうですね、佐藤部長から他人の悪口を聞いたことはないです」

「ははは。私は言わないように意識しているからね。それを意識しなくてもできるようになったら本物なんだけどね」

「なるほど。でも、まずは意識するところから始めることですね」

「うん、お互いに気をつけようじゃないか」

「はい。やっぱり、他人と上手に交際する秘訣は、『愛敬』の二文字ですね!」

「タケさんの専売特許だね!」

「『神坂君、愛するだけじゃ足りない。敬してこそ相手を心から大切にすることになるんだよ』って言葉、何回聞かされたことか」

「でも、その通りじゃないか。私はお世辞抜きに神坂君を尊敬しているよ」

「勘弁してください。部長に尊敬されるような人間にはまだまだほど遠いですよ」

「そんなことはないよ。神坂君の営業センスは、私にはとても適うものじゃないからね」

「それは私にはよくわかりませんが、たしかに部長に叱られても素直に聞き入れることができたのは、部長が私に対して愛敬の二字をもって対応してくれていたからなんでしょうね?」

「そこは自信をもってイエスといえるよ!」

「よし、私ももう一度、『愛敬』を意識して人と接してみます。あ、そうだ。タケさんが、今度一緒に藤樹書院に行こうと言ってました。一緒に行きませんか?」

「ああ、いいね。私の大好きな場所だよ。ぜひ、ご一緒したいな」


ひとりごと

小生は、すぐに他人を馬鹿にしてしまう傾向があります。

それは実のところ、自信の無さの裏返しなのでしょう。

どうせ他人と比べるなら、相手の美点を探し出すべきですね。

そうすれば、自然と敬意を抱くことも可能になります。

意識せずとも、他人に対して「愛敬」の二文字で交際できる人間にならねばなりません!


【原文】
愛敬の二字は、交際の要道たり。傲視(ごうし)して以て物を凌ぐこと勿れ。侮咲(ぶしょう)して以て人を調すること勿れ。旅獒(りょごう)に「人を玩(もてあそ)べば徳を喪う」とは、真に是れ明戒なり。〔『言志晩録』第198条〕

【意訳】
愛敬の二文字は、人と付き合う際の重要な道である。人を見くびって物事をあなどってはいけない。また人をばかにして笑い、からかうようなこともいけない。『書経』の旅獒篇に、「人を玩べば徳を喪う」とあるのは、明快な戒めである

【一日一斎物語的解釈】
人と交際する際には、愛敬の二文字を大切にすべし。人を蔑んだり、馬鹿にしたりすることは、徳のない人間のすることなのだ。


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