今日の神坂課長は、営業部特販課の雑賀さんをランチに誘ったようです。

「どうだ、雑賀。最近は真面目に仕事をしているのか?」

「勘弁してくださいよ。俺はいつだって真面目にやってますよ」

「へぇー、そうなのか?」

「信じてないでしょ?」

「うん、信じてない」

「部下を信頼できない上司はダメですよ。信頼しないと人は育ちませんからね」

「お前は上司を信頼しているのか?」

「えっ、まぁ、それなりには・・・」

「お互いに信頼し合う必要がありそうだな。(笑)」

「大累課長は、私の仕事をすぐに手抜きだと決めつけるんです。でも、簡単な仕事なら手を抜いても良いと思うんです」

「手を抜くという意味が、何を指すのかよくわらかんが、仕事ができる人というのは、どんな仕事も同じモチベーションで処理するものだぞ」

「神坂さんもですか?」

「うん。俺は手抜き仕事はしない。たとえば、売上金額の大小で力の入れ具合を変えることはない!」

「マジですか? 俺は儲からない仕事はやりたくないので、適当に処理してしまいます」

「もちろん営業だから、売上が大きいに越したことはない。でもな、小さな仕事をしっかりやらないと、本当の意味での大きな仕事はできないぞ」

「そうなのかなぁ?」

「俺は、過去に1万円の医療器具を緊急で200kmも離れたクリニックに届けたことがある。高速代や人件費を考えたら赤だよな。でもな、その施設のドクターは本当に困っていたんだ。電話でそれが伝わったので、俺は走った」

「俺なら絶対走りません」

「その後、その先生からお礼の手紙が届いた。俺はそれを読んだとき、これでいいと思った。心から感謝してもらえたことがうれしかったからな」

「後で大きな器械を買ってもらったとかいうオチはないんですか?」

「ない!」

「そんなことばかりしてたら、ビジネスは成り立たないじゃないですか!」

「それはそうだ。時と場合による。しかし、一律に金額で仕事の質を決めるべきではないと信じている」

そこに総務の丸川さんがやってきました。

「あ、いたいた。雑賀さん、お手紙が届いていますよ」

「手紙? なんだろうなぁ」

雑賀さんは手紙を読み進めるうちに、目頭が熱くなってきたようです。

「雑賀、なんて書いてあるんだ?」

「この前、ある病院で患者さんが落とし物をしたといって困っていたので、一緒に探してあげたんです。結局、トイレにあったんですけどね。そのお礼の手紙です」

「雑賀、お前もちゃんと金にならない仕事をしているじゃないか!」


ひとりごと

金にならない仕事を極端に忌避する人がいます。

しかし、もしお客様が困っているなら、できる範囲で力を尽くすべきなのではないでしょうか?

見返りを求める気持ちは捨てて、ただお困りごとを解決するお手伝いをする。

そうした意識の積み重ねによって、将来的には大きな仕事を処理する能力や意識が身につくのかも知れません。


【原文】
人に接すること衆多なる者は、生知・熟知を一視し、事を処する練熟なる者は、難事・易事を混看す。〔『言志晩録』第206条〕

【意訳】
多くの人と接している人は、ものごとをよく知っている人もそうでない人も同じようにひとりの人として視ている。また事物を処理することに熟練している人は、難しいことも容易なことも同様に捉えて決して手を抜かないものだ

【一日一斎物語的解釈】
他人を能力によって差別することや、仕事の軽重を見て手を抜くようなことをしてはいけない。


nimotsu_picking_barcode_man