今日の神坂課長は、新美課長を誘って「季節の料理 ちさと」にやってきたようです。

「ママ、どうせ暇だと思ったから、感染症に強そうな後輩を連れてきたよ」

「あら、新美君、久しぶり」

「ご無沙汰していました。最近、神坂さんからお誘いがなかったもので・・・」

「他人のせいにするな、若手社員じゃないんだからよ!」

「相変わらず口の悪い先輩ね」

「ママ、ところでお店の状況は大丈夫なの?」

「厳しいわ。神坂君のように、常連さんの何人かは気にかけてくれるけど、全体的にはいつもの売上の半分にもいかないくらい」

「マジで! 自営業は辛いね。その点、サラリーマンはお気楽だよな、新美」

「そうですね。でも、この状況が続けば、ウチのような中小企業は倒産するところも出てきますよ、きっと」

「たしかになぁ。どこの病院も外来数が減っているから、必然的に検査数やオペ件数も減っているもんな」

「こんな状況だから、しばらく実家にも帰ってないし、今月いっぱいお休みにして親孝行をしてこようかな、なんて思ってる」

「ママの実家は福岡で、お母さんがお一人で暮らしているんだったね?」

「うん、母だけ。父は早くに亡くなったわ」

「それは心配ですね」

「まあね。でも近くに妹が住んでいるから、いろいろと世話はしてくれているんだけどね」

「自分が大変な時に、かえって親孝行をしようと思うなんて、ママはやっぱりすごいねぇ」

「あら、そんなに褒められたら恥ずかしいわ。日ごろは、連絡もしていない親不孝娘なんだから」

「親孝行とか上司に対する忠義といったものは、無意識の世界で思い続けてこそ真の忠孝だ、なんて一斎先生が言っているんだ。日ごろから意識があるから、こういうときに親の顔が浮かぶんだよ」

「お、リトルサトウの降臨ね。たしかにそうかも。でも、若いうちはなかなか親のありがたさがわからないものよね」

「自分も子供を持つようになって初めてわかるもんだよね」

「あ、それは先輩に対する忠義というか敬意みたいなものも同じですよ」

「新美、どういうこと?」

「私も課長になってみて、はじめて神坂さんの大変さとかすごさがわかりましたから」

「ということは、それまでは神坂君のことは・・・」

「怖くてうるさい先輩だなと思ってました」

「やっぱりね!」


ひとりごと

意識をしないと孝行ができなかったり、忠義の心を持てないうちは、真の忠孝ではない、と一斎先生は言います。

しかし、無意識の世界に刷り込むには、まずは強く思い続けねばならないでしょう。

親に対する孝行心も、先輩や上司に対する忠誠心も、まず思うことから始めねばなりません。


【原文】
真孝は孝を忘る。念念是れ孝。真忠は忠を忘る。念念是れ忠。〔『言志晩録』第227条〕

【意訳】
真の孝行とは孝行をする意識さえない状態である。常に心に思い続けることが孝である。真の忠とは忠義を果たす意識さえない状態である。常に心に思い続けることが忠である

【一日一斎物語的解釈】
意識せずとも、常に思い続けてこそ、真の忠孝である。


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