今日の神坂課長は、総務課の大竹課長と喫茶コーナーで談笑しているようです。

「タケさん、お母さんは元気?」

「お陰様でね。例の件(オレオレ詐欺事件)のこともようやく忘れてくれたようだしね」

「それは良かったですね。そういえばこの前、佐藤部長と話をしていたんですけどね。親孝行も大変だけど、子育ても難しいなという話になりまして」

「伸び伸びと育てれば良いんじゃないの?」

「基本的にはそうなんでしょうけど、一斎先生の言葉にこんなのがあるそうです。『父親は厳しさの中に優しさを、母親は優しさの中に厳しさを持て』って」

「なんだか耳が痛いな。俺は父親として子供たちに厳しく接した記憶がないな」

「もしそうだとしても、奥さんが厳しく接して、バランスを取ればいいんだと思っていたんです」

「ウチは奥さんもそれほど厳しくないよ」

「まあ、子育てにこうすれば100%良い子が育つみたいな法則はないとは思うんですけど、やっぱり父親と母親の役割分担は大事だなと思います」

「父親は厳しくなきゃダメか?」

「私はそう思うようになりました。今の時代、父親が優し過ぎるから、母親がどうしても厳しくなりがちですよね?」

「そういう傾向はあるのかなぁ」

「ウチの息子たちは毎朝、カミさんに叩き起こされています。俺にも厳しく言ってくれって言うんですけど、起こさないで遅刻させれば反省するんじゃないかと思っているので、あんまり厳しくは言っていないんです」

「なるほど」

「でもそれって、実は自分が厳しく言うことから逃げるための口実なのかも知れないなぁと思い始めました」

「父親はある程度嫌われ役を買って出ないとダメだということか?」

「その方がバランスが取れるんじゃないのかなぁ」

「たしかに子供としては、優しさをお母さんに求めたいというのはあるね。あんまり厳しい父親は嫌だけど、時にはビシッと叱ってくれる父親を望んでいるのかも知れないね」

「あのフィリップ・マーロウは、『男はタフでなければ生きていけない。優しくなければ生きている資格がない』と言っていますが、タフさを忘れて、ただ優しいだけじゃ、男じゃないんでしょうね?」

「おいおい、マーロウって、小説の中の人だろう」

「そうですけど、この言葉は名言中の名言ですよ! 俺も、もう手遅れかも知れませんが、厳しさの中に優しさを忍ばせる父親を目指してみるかな」

「タフで優しい男ね!」


ひとりごと

時代錯誤だという人もあるかもしれませんが、父親と母親の役割に過去と現在で大きな違いはないのではないでしょうか。

母親のもつ母性本能と、子供のもつ母への敬慕の気持ちを、ともに発展させるためにも、父親が厳しくならねばなりません。

しかし、小生の息子二人のうち一人は成人しました。もう一人は高校生。

遅きに失した感がありますが、これいかに?


【原文】
父の道は当に厳中に慈を存すべし。母の道は当に慈中に厳を存すべし。〔『言志晩録』第229条〕

【意訳】
父としての道とは厳しさの中に慈しみをもつことであり、母としての道とはいつくしみの中に厳しさをもつことである

【一日一斎物語的解釈】
父親は厳しさの中に優しさを、母親は優しさの中に厳しさを持たねばならない。


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