神坂課長が善久君を叱っているようです。

「なぜ、他社の状況をしっかりと確認しなかったんだよ!」

「他社が来ていることを知らなかったので・・・」

「お前はいつもそうやって勝手に判断をするよな。自分は完璧だとでも思っているのか?」

「思っていません・・・」

「ここに来ての商談ロストは致命的だぜ。挽回する余地はあるのか?」

「・・・」

見かねた佐藤部長が声をかけたようです。

「神坂君、あとでちょっと来てくれる?」

善久君とのやりとりを終えた神坂課長は佐藤部長の部屋に入って行きました。

「参りました。このタイミングでAランクで読んでいた商談をロストですよ。善久のやつはいつも期末に商談を落とすんですよ」

「それなんだけどね。なぜ毎回同じことを繰り返すと思う?」

「えっ? それは・・・。私の言うことを理解していないからでしょうか?」

「叱られている善久君を客観的に見ているとね、下を向いているだけで、心の耳は塞がっているように見えたんだ」

「心の耳ですか?」

「神坂君の剣幕が凄いから、彼は怖いんだろうね。とにかく心を閉ざして、嵐が過ぎるのを待っている、そんな感じに見えたよ」

「私の話を聞いていないということですか?」

「他人を叱責するときは、やり過ぎないように。そう一斎先生は言っている。7〜8割程度にして、自暴自棄にならず、自分のミスを認めて改善しようと思わせるように仕向けなければ駄目だ、とね」

「私は完膚なきまでに叩き潰してしまっているのですかね?」

「これは相手にもよるよ。石崎君ならああいういい方でも、『ナニクソ』って思って、奮起するんだろう。でも、善久君はそういうタイプではないよね」

「たしかにそうですね。やる気を無くさせてしまっては、元も子もないですね」

「わかってくれるね」

「はい。ありがとうございます。それで、お願いがあるのですが」

「なに?」

「今回は、部長から善久に話をしてもらえませんか? この後、私が話をしても、やつの心はすぐには開かないと思うんです。次にこうした機会があったときは、しっかり意識して叱責するようにしますので」

「OK。こういう役割分担もチームには必要だね。では、今回は私が話をしよう」

「よろしくお願いします」


ひとりごと

この一斎先生のご指摘は心に刺さります。

小生は、この完膚なきまでに叩くタイプのリーダーでした。

メンバーは、話を聞くというより、嵐が過ぎ去るのをじっと待つという心境だったのでしょう。

叱責の目的は何か?

それは、メンバーの成長にあるはずです。

それを忘れてしまえば、ただ人間関係を悪くするだけで終わってしまいますね。


【原文】
人の過失を責むるには、十分を要せず。宜しく二三分を余し、渠(かれ)をして自棄に甘んぜず、以て自ら新にせんことを覔(もと)めしむべくして可なり。〔『言志晩録』第233条〕

【意訳】
他人の過失を責める際は、やり過ぎないことだ。7~8割程度の指導に留め、その人が自暴自棄になることなく、気持ちを新たにして改善ができるように指導していけばそれで良い

【一日一斎物語的解釈】
他人の過失を責め過ぎてはいけない。叱責の目的は、その人の成長を促すことにあることを忘れてはいけない。


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