営業2課の若手・梅田君がトラブルを起こしたようです。

「梅田、何をやったんだ」

「はい。ちょっと軽はずみなことを言ってしまって、院長先生に激怒されました」

「なんて言ったんだ?」

「スコープ(内視鏡)に穴が開いて修理する必要があるのですが、すぐに代替え品が手配できない状況だったんです」

「よくあるケースじゃないか」

「はい。O社さんに電話したら、いまあるのは動物実験用のスコープだけだ、と言われまして・・・」

「まさか、お前?」

「はい。『動物実験用ならすぐ手配できるのですが』と言ってしまいました」

「おいおい、それはダメだろう。言う前に気づいてくれよ!!」

「すみません。明日の検査を待っている患者様のために、なんとかしたいという思いが強くて・・・」

「その気持ちは大事だけどさ。さすがに動物実験用はなぁ。それで、代品の手配はできたのか?」

「はい。O社さんで手配してくれて、明日の朝にS急便の支店留めにしてもらいました」

「よし。では今からクリニックに行こう。まだ診察しているだろうから、診察終わりに謝罪して、代品のことを直接伝えよう」

「よろしくお願いします」

「梅田、こういう時は言い訳はするなよ。ただ丁重にお詫びをしろ。お前が本当に申し訳ないと思っているなら、言い訳なんかしなくても伝わるものだ」

「はい・・・」

「心配するな。出入り禁止だって言われたわけじゃないんだろう?」

「はい。すぐに代品を手配して持ってこい!と怒鳴られましたけど・・・」

「昔、同じような状況のときに、『先生、そんなに言われても、ないものはないんです』といって、出禁になった奴がいた。それに比べればお前の方がなんとかしたいという気持ちがあるだけマシだ」

「そんな人がいたんですか?」

「その後、大変なことになってな。結局、社長が直接謝罪して、なんとか収まったんだよ」

「その人は、もう辞めてしまったのですか?」

「いや、辞めてないよ」

「そうなんですか!」

「誰か知りたそうだな?」

「いや、別にそういうわけじゃ・・・」

「今、お前の目の前にいる奴だよ」


ひとりごと

営業の仕事をしていると、よく起こるのが、言った言わない論争です。

そういうときの営業マンの決まり文句は、「そういうつもりで言ったのではない」です。

しかし、「つもり」は関係ありません。

コミュニケーションにおいては、相手がどうとったかがすべてです。

そういうときは、言い訳をせず、誠の一字で乗り切れ、と一斎先生は言います。

そのとおりだと思います。


【原文】
形迹(けいせき)の嫌(けん)は口舌を以て弁ず可からず。无妄(むぼう)の災は智術を以て免る可からず。一誠字を把って以て槌子(ついし)と為すに如くは莫し。〔『言志晩録』第235条〕

【意訳】
何らかの形跡が残っている嫌疑については、口頭で弁解すべきではない。正しいものにふりかかった予期せぬ禍については、頭で考えて策を講じるべきではない。ただ誠の一字をもって、相手の心に小槌を打ち込む以外に方法はない

【一日一斎物語的解釈】
自分の行動や言動が引き金となったトラブルについては、弁解をせず、ただ自分の想いを素直に伝え、理解を求めるしかない。


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