今日の神坂課長は、佐藤部長の部屋に居るようです。

「人間って面白いですよね。急ぎの仕事をしている時には、なぜか気持ちも焦ってしまいます。逆に、じっくりと取り組むときには、心も落ち着いています」

「そうだね。心というのは、外の事に惑わされやすいものだよね」

「それですそれ! それを言いたかったのです」

「本来、心は常に安定していることが理想だけれど、それができるのは聖人君子だけかも知れないねぇ」

「部長はいつも冷静ですよね」

「そう見える? それなら良かった。実際にはそうではないからね」

「そうですか?」

「私はかなりのせっかちだよ。じっくりとひとつのことに取り組むのは苦手で、だからこそ営業の世界に飛び込んだんだ」

「どういうことですか?」

「営業というのは成果が出やすいでしょう。お客様に誠意をもって接すれば、自然と売上はついてくるからね」

「なるほど」

「もっとも、営業の世界に長く居れば居るほど、実はそうでもないことがわかってきたけれどね」

「え?」

「お客様、特にドクターとの人間関係を構築するには、勉強をしなければいけないし、長い時間をかけて少しずつ信頼を得ていかなければならない。そういう人間関係を築けなければ、売れ続ける営業マンにはなれない」

「それに気づいたのですね?」

「うん。それでいて、信頼を失うときは一瞬だ。気を許せば積年の苦労が全部水の泡になってしまう」

「私もその手の苦い経験がたくさんあります」

「つまり、どんな仕事でも、心を安定させていなければいけないということだよ」

「我々に比べて、ドクターは常に人の命と格闘していますから大変ですよね。自分の握るメスが目の前の患者さんの命の行方を左右するわけですから」

「だからこそ我々が、安全で質の高い医療を提供できるように、しっかりとお手伝いをしなければならないんだね」

「そうかぁ。我々の提供する医療機器の良し悪しによって、ドクターの心の安定度も左右されるかも知れないのですね?」

「大事な仕事をしているんだよ、我々も!」

「身が引き締まります!!」


ひとりごと

外物に影響されない心を作り上げることは容易ではありません。

急ぎの時こそ心は落ち着いていなければならず、ゆったりとした状態のときには心を引き締めねばならないのです。

外物に影響されるのではなく、外物とバランスをとれる心を作り上げましょう。


【原文】
昼夜には短長あり、而も天行には短長無し。惟だ短長無し。是(ここ)を以て能く昼夜を成す。人も亦然り。緩急は事に在り。心は則ち緩急を忘れて可なり。〔『言志晩録』第238条〕

【意訳】
(地球が太陽をめぐるのは、三百六十五日四分の一と数字的に定まっていて、地軸が二十三度傾いているから、昼夜長短の差ができる)。それゆえに昼夜には長短があるが、天の運行に長短はないのだ。天の運行に長短がないからこそ、昼夜があるのである。人間もこれと同じである。緩急というのは物事にあるのであって、心は緩急を忘れていつも一定であればそれで良い

【一日一斎物語的解釈】
仕事には急ぎもあれば、じっくり取り組むべきものがあるが、心はつねに緩急なく一定に保っておくべきだ。


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