神坂課長のところに善久君がやってきました。

「課長、明後日に食道ステントの症例があって、予定ではC社の笹尾さんが来てくれる予定だったのですが、コロナ関係の緊急会議で来れなくなったそうです」

「ほぉ、それはチャンスだな」

「え?」

「お前がしっかり勉強して立ち会えば、お前の株が上がるじゃないか」

「でも、ステントの立ち会いなんてやったことないです」

「正直に言えよ。勉強はしてきたが、自分はまだステント症例に立ち会ったことがないので、勉強させてくださいって」

「素人を送り込んだのかといって怒られませんか?」

「誰だって最初は素人じゃないか。どんな営業マンだって、勉強して、恥をかいて、後悔をして、成長するんだよ」

「恥をかいても良いのですか?」

「恥はかかなきゃだめだ。恥をかいて初めて学ぶことが多いからな。恥をかくことを怖がるな」

「は、はい」

「絶対にうまくいくように立ち会おうなんて思わなくていい。ドクターも初めて使うわけではないだろう。とにかく勉強させてもらうというスタンスで行け!」

「うまくいかなくても良いのでしょうか?」

「良くはないが、そういう時もある。そこで、しっかり悔やむんだ。そして反省して次に活かせ」

「はい」

「あそこにいる大累は、それこそありとあらゆる失敗をした男だ。かつては『失敗のデパート』とまで呼ばれたこともある」

「ははは。そうなんですか?」

「すみませーん! そこのお二人、こっちまで聞こえているんですけど!」

「あれ、大累。聞こえちゃった?」

「完全に聞こえるように言ってるでしょう。俺の部下もいるんですから、そういうことは小声で話してもらえませんかね!」

「なぁ、大累。恥をかくことと、後悔することは大事だよな?」

「そうですね。今の若い人は特に恥をかきたがらないけど、恥をかかないと学べないことって絶対にありますからね」

「ほら、善久。恥と後悔のスペシャリストのありがたい教えだ。ちゃんとメモしておけよ!」

「善久君、たしかに俺はかつて『失敗のデパート』と呼ばれたけどな、そこにいるおっさんの呼び名もすごかったぞ」

「え、神坂課長はなんて呼ばれていたのですか?」

「『失敗のエンサイクロペディア』、つまり失敗の百科事典だよ」


ひとりごと

誰しも恥はかきたくありませんし、後悔もしたくないでしょう。

しかし、人生には恥をかいてこそ学べる事、後悔をしてこそつかめるものがあるものです。

特に若いうちに、たくさんの恥と後悔を経験して、人生後半に向けて準備をしておくべきなのです。

そのために、リーダーである皆さんは、部下や後輩の失敗を暖かく見守る広い度量を持たねばならないのでしょう。


【原文】
人は恥無かる可からず。又悔無かる可からず。悔を知れば則ち悔無く、恥を知れば則ち恥無し。〔『言志晩録』第240条〕

【意訳】
人間は恥を知らなけれならない。また、後悔の念を抱くということも必要である。後悔の念を抱けば、最終的には悔い改める必要はなくなるし、恥を知ることができれば、恥をかくこともなくなるものだ

【一日一斎物語的解釈】
恥を知ること、後悔することは、人生において必要欠くべからざるものである。


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