定時後、営業2課の石崎君が後輩の梅田君と談笑しているようです。

「お客さんと一緒に旅行に行くなんて、ザキさん、すごいっすねぇ」

「まあね、たぶん俺には人に好かれる何か特別な才能があるんだろうなぁ」

「人に好かれるための努力とかはしていないんですか?」

「全然! 自然に行動すると、お客様に声をかけてもらえるんだよな」

「マジっすか?」

「おいおい、少年。君は体も小さいが、人間も小さいねぇ」

「な、なんですか、神坂課長。盗み聞きですか?」

「誰が盗み聞きやねん! お前ら普通にデカい声で会話してるんだから、聞こえるだろう」

「チビで悪かったですね!」

「アホ、そっちじゃねぇわ。後輩に自慢話をしていることが小さいって言ったんだよ! 一個上の先輩の自慢話なんて参考にもならないよな、梅田」

「い、いや、そんなことはないですよ。ザキさんは、尊敬できる先輩です」

「本当にそう思ってる?」
神坂課長が意地悪い顔で梅田君を見つめています。

「せっかくのコミュニケーションを邪魔する神坂課長の方が人間が小さくないですか? なぁ、梅ちゃん」

「そ、それは・・・」

「やかましいわ! いいか、石崎。後輩に対しては、自慢話なんかしないで、もっと失敗談を話せ。後輩からしたら、そっちの方がよっぽど勉強になる

「そんなに失敗しないですから、俺」

「お前はドクターXか! 俺が、どれだけお前のケツを拭いてきたと思ってるんだよ」

「記憶にないんですよね、あんまり」

「お前は今すぐ政治家を目指せ。営業マンより向いているかもな。いいか、若者よ。他人に長所を語るな。むしろ短所を語れ。自分の短所を素直に認める奴が人に好かれるんだよ

「あっ」

「なんだよ、石崎」

「それです、それ。私はお客様に、自分のダメなところを先に話をします。そういうところがあったら指摘してくださいって!」

「だから、ザキさんはお客様に好かれるんですね?」

「そういうことみたい」

「なるほどな。お客様には好かれるけど、梅田に好かれないのはそこだな。梅田には自慢話ばっかりしているんだろう? じゃあな、お先に帰ります」

「え、梅ちゃん、俺のこと嫌いなの?」

「ちょっと、神坂課長! 勘弁してくださいよ、私は一度もそんなこと言ってないですって!!」

居室に梅田君の声がむなしく響き渡ったようです・・・。


ひとりごと

自分の長所は自慢したくなり、自分の欠点は隠したくなるのが人情です。

しかし、その逆でなければいけないと一斎先生は言います。

たしかに良好な人間関係を築くには、それが一番なのかも知れませんね。


【原文】
己の長処を言わず、己の短処を護せず。宜しく己の短処を挙げ、虚心以て諸を人に詢(と)うべし。可なり。〔『言志晩録』第245条〕

【意訳】
自分自身の長所については語らず、また自分の短所も擁護しない。ただ短所を認めて、真摯に他人に相談するべきである。

【一日一斎物語的解釈】
他人に長所を自慢せず、むしろ短所を素直に認めて虚心坦懐に接する。これこそが人間関係を良好に保つ秘訣である。


senpai