今日の神坂課長は一日中社内で仕事をしているようです。

「大手のメーカーさんは次々に自宅待機になっているけど、ウチのようなディーラーは納品があるから、そうはいかないもんな」

隣の大累課長に声を掛けたようです。

「そうですね。だけど、我々マネージャーは担当を持っていないので、納品はありませんからね。用もないのにお客様のところに行くのも難しい状況ですし、今何をすべきかは悩みどころですね」

「そうなんだよな。新規は無理にしても、ウチにとって重要なお客様のところを訪問するチャンスだと思っていたけど、訪問を自粛してほしいと言ってきている施設も増えてきて、それも思うようにはいかないんだよなぁ」

「ここはドッシリと構えておくしかないんですかね?」

「本当はな。だけどよ、お前とか俺の場合、本人はドッシリしているつもりでも、メンバーから見たら、ただ何もしていないという風に見えるんじゃないか?」

「たしかに。そもそもドッシリしているのが苦手なタイプですからね、お互いに」

「そういえば、一斎先生の言葉に、厚重は良いが、遅重はダメ。真率は良いが軽率はダメだという意味の言葉があった」

「難しいですね。どういうことですか?」

「つまり、ドッシリは良いけど、のろまはダメ。正直で素直なのは良いけど、軽はずみはダメという意味だ。ドッシリとのろま、正直と軽率は、似ているようで全然違うから気をつけろ、という意味だろうな」

「なるほど、神坂さんの場合、ドッシリしていないし、軽率に見えますから、気をつけた方がいいですよ」

「やかましいわ。その言葉、そっくりそのままお返しするぜ」

「しかし、こういう会話もいつものテンポでできないですね。これだけ距離が離れていると」

「これがソーシャルディスタンシングということらしい。日本語で言えって感じだけどな」

「社内でここまでやらなきゃいけないなんて、本当にCOVID-19はやっかいになってきましたねぇ」

「すでにお前が罹患者かも知れないからな」

「神坂さんこそ、夜の街を出歩いていた人だからヤバいですよ」

「俺は一杯飲み屋にしかいかない。キャバクラはだいぶ前に卒業してるよ」

「でも、このソーシャルディスタンシングには良いこともありますね」

「なんだよ」

「先輩の暴力が及ばないという」

「そんなことはないぞ」

「痛てぇ。何ですかそれ?」

「割りばしで作ったゴム鉄砲だ。あんまり暇だから作ってみた。これでいつでも攻撃可能だ」

「ガキか!!」


ひとりごと

軽率という言葉は知っていても、真率という言葉を知っている人は少ないのではないでしょうか?

かくいう小生も知りませんでした。

リーダーたるもの厚重かつ真率であるべきだと一斎先生は言います。

ところが意外と自分はそのつもりでも、他人からみると遅重かつ軽率にみられているかも知れません。

いまこそ、厚重と真率の意味をよく理解し、実践すべき時なのではないでしょうか?


【原文】
人は厚重を貴びて、遅重(ちじゅう)を貴ばず。真率を尚(たっと)びて、軽率を尚ばず。〔『言志晩録』第246条〕

【意訳】
人はゆったりと重々しいことを尊ぶが、のろまで鈍いことは尊ばない。また、正直で飾り気がないことは尊ぶが、軽率であることは尊ばない

一日一斎物語的解釈
ドッシリしていることと遅鈍であることは似て非なるもの、正直なのと軽率なのもまた似て非なるものだ。


speed_slow_turtle_mail