今日の神坂課長は佐藤部長の部屋に居るようです。
「この社会的距離ってやつが一般化すると、アフターコロナの世界でも狭い会議室とか居酒屋は嫌われるかも知れませんね」
「うん、いろいろとCOVID-19感染前には戻れないことが増えるだろうね」
「世間はかなりテレワークが浸透しているようですけど、ウチのような零細企業はなかなかそうもいかないので、いろいろとやることが多くて、かえって読書をする時間がなくなりましたよ」
「『一日読まざれば、一日衰える』と森信三先生は言っているね」
「ヤバいなぁ。どんどん衰えているのかも知れません」
「でもね、一斎先生はこうも言っているよ。『どんな出来事からも学ぶことはできる』って」
「なるほど。本を読むだけが学問ではないと?」
「そのとおり。そもそも緊急事態宣言が出されることなんて、わが国ではこれまでなかったわけだから、この状況下でしか学べないことが多いんじゃないかな?」
「たしかにそうですね。かえって本を読んでいる場合ではないかも知れません。(笑)」
「時務学ではなく人間学こそ、真の学問だと安岡正篤先生も言っている。こういう状況でこそ、自分を鍛える良い機会だと思うよ」
「まさに修身のチャンスか?」
「こういう時に利己心だけで行動すると、平時に戻った時には誰からも相手にされなくなるかも知れない」
「そうですね、転売しないまでも、マスクやトイレットペーパーを必要以上に買い占めるのも利己心の表れですよね」
「今こそ利他の心で他人に接するべきなんだと思う。『お陰様』とか『お互い様』という精神だろうな」
「とくにお客様に対しては、そういう心持ちで接するときですね。今、お客様は何に困っているのか? それを本気でお客様の立場になって考える必要がありそうです」
「さすがは神坂君だね」
「いや、実は今すごく反省しています」
「え、どうして?」
「さっき、総務課からアルコールジェルが手に入るから、必要な数を出してくれというメールが流れましたよね。あまり考えずに2個、オーダーしてしまったんです」
「ははは。なるほど」
「タケさんのところに行って、1個に変更してきます」
「まずはそういう小さなことから、利他の心を発揮していくのが良いだろうね!」
「はい。では失礼します!!」
ひとりごと
自分自身の心ひとつで、どんなことも学びとなります。
本を読むことだけが、学問ではないのです。
読書はインプットでしかありません。
それをいかにアウトプットするかをしっかりと思索し、目の前の仕事に適用して活学してこそ、真の学問となるのです。
緊急事態の今だからこそ、真の学問に取り組むべきなのかも知れません。
【原文】
多少の人事は皆是れ学なり。人謂う、「近来多事にして学を廃す」と。何ぞ其の言を繆(あやま)れるや。〔『言志晩録』第263条〕
【意訳】
人が行う大小の出来事はすべて学問に通じている。人は「最近はやる事が多すぎて、学ぶことができない」と言う。これはなんと間違った言葉であろうか。
【所感】
どんな出来事からも学ぶことはできる。本を読むだけが学問ではないのだ。