今日の神坂課長は、久しぶりにいきつけの喫茶店に顔を出したようです。

「マスター、また個室を借りたいんだけど、空いてる?」

「おや、神坂さん。久しぶりだねぇ」

「ごめんね。なるべく外出を控えていたからさ」

「お気になさらず。個室はちょうどさっき1室空きましたよ。注文はいつものでいいですか?」

「ありがとう。あ、そろそろアイスコーヒーにしようかな?」

「承知しました」

神坂課長は個室に入ったようです。

「COVID-19の蔓延のせいで、なんだか死について考える機会が増えた気がするな。昨日もちさとママがお店を閉めるのは、死の疑似体験だみたいなことを言ってたし」

運ばれてきたアイスコーヒーを一口飲んで、もってきた『言志四録』をパラパラとめくり始めたようです。

「やっぱり晩年の一斎先生のコメントには、生死に関するものが多いな。あー、ここにも出てる」

「『無は無から生じるのではなく、有から生じるものだ。同じように、死も死から生じるのではなく、生から生じるのだ』。なるほど、それはそうだなぁ」

「そういえば、以前に部長に、人間が生まれてきたことに意味があるのかって質問したことがあったな。そのとき部長は何て言ったっけ?」

古いメモ帳をめくり返しています。

「あー、あった。『意味があるのかどうかはわからない。しかし、せっかく生まれてきた以上は、自分で意味を見つける方が良いのではないか』。うーん、事実はどうかわからないけど、ポジティブに考えろってことだな」

「この世に生まれてしまった以上は、いつかは必ず死ぬんだ。それなら、生きている間に自分の存在意義を見つけないと面白くないよな。ところで、俺の存在意義って何なんだろう?」

しばらく考え込んでいるようです。

「まぁ、すぐには見つからないか。この40代を真剣に生きれば、50にして天命を知ることができるかな? そう信じてみよう」

「よし、思考タイムは終了だ!」

神坂課長は、iPhoneに取り込んだ、踊ろうマチルダ(注:アーチストの名前)の『新しい夜明け』というアルバムを聴き始めたようです。

「そういえば、踊ろうマチルダとしての活動を終了するってホームページに出ていたな。マチルダも一旦死を迎えるわけか。彼が次にどんなアーチストとして新しい生を迎えるのかにも期待しょう!!」


ひとりごと

生がある以上、必ず死があります。

これは不易の世界です。

しかし、その生をどう生きるかについては、変易、つまり自ら変えることができるのです。

それなら、ネガティブに生きるより、ポジティブに生きる道を選びましょう!!


【原文】
無は無より生ぜずして、有より出ず。死は死より死せずして、生より死す。〔『言志晩録』第288条〕

【意訳】
無は無から生じるのではなく、有があってはじめて生じる。同様に死というものも生があってはじめて死があるのである

【一日一斎物語的解釈】
無は有からしか生じないように、生があるからこそ死があるのだ。


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