今朝の神坂課長は、始業前にデスクでネットニュースを見ているようです。

「しかし、この女子ボクサーの子が自殺したっていう事件は可哀そうだな」

「あー、グラスハウスに出ていた子ですよね。結構、タイプだったんですよねぇ」

「へぇー、石崎。お前はこういうタイプの子が好きなのか」

「ちょっと強そうな子の方が引っ張ってくれそうで、良いじゃないですか」

「お前は女子か! でも、たしかにお前はMだもんな。わざと俺に叱られることばっかりするもんな」

「それはとんだ誤解です!!」

「しかし、こうやってネットで誹謗中傷をする連中というのは、何が楽しくてやっているんだろうな」

「単なるストレス発散とか、そういうふざけた理由みたいです。法的手段に訴えると聞いて、相当ビビっているらしいですよ」

「相手からは自分が見えない状態で人を責めるなんていうのは、人間の心を持った人のやることじゃないよな。そいつらは獣だよ。そういう奴らが罰せられて、〇〇容疑者という形で世の中に知られる仕組みを作った方がいい。そうすれば、そういう弱虫野郎はみんな止めるだろう」

「きっとそうですね」

「学校では、知識ばかり詰め込んで、相手の気持ちを思いやることを学ぶ教育はされていないんだろうなぁ」

「そんな授業を受けた記憶はないです」

「勉強も大事かもしれないけど、本当に大事なのは、自分とは違うタイプの人も素直に受け入れられる心を育てることじゃないのかな。社会に出れば、自分とは意見の違う人とも上手に付き合っていかなければいけないんだから」

「そうですよね。たとえば、私にとっての神坂課長とか」

「やかましいわ! それはこっちのセリフだ!!」

「たしかに、神坂課長はどんなタイプの人でも受け容れますよね。雑賀さんとかも、結構神坂課長には懐いていますし」

「サイさんが言っていたんだ。本当の学問というのは、学問が進めば進むほど、人を受け容れられるようになるってな」

「課長はそういう勉強をしたんですか?」

「いやいや、俺はまだ始めたばかりだ。それに、お前はそう言ってくれるけど、実際には本当の意味で人を受け容れているかどうかは怪しいもんだ」

「へぇー、そうなんですか。でも、みんな、神坂課長のことはちょっと恐れていますけど、でもなんか不思議な魅力も感じていると思いますよ」

「なんだ? さてはお前、この後昼飯を俺に奢らせようと企んでいるな?」

「あー、本当だ。課長はまだ私をちゃんと受け容れてませんね。そんなこと、全然考えてなかったのに・・・」

「あ、ごめんごめん。俺は、人から馬鹿にされたり、イジられたりしている時は、素直になれるんだけどな。なぜか褒められると素直になれないんだよなぁ」

「仕方ないですね、昼飯で許してあげます」

「ちぇっ、結局そういうことかよ!!」


ひとりごと

たしかに、最近の世の中は他人を受け容れるということがおろそかになっている気がします。

人を責めることでしか、自分を主張できない輩が蔓延しているようです。

ネットニュースをみてもそんな事件ばかりですね。

他人の美点を探して、そこを認める。

それだけで、人間関係は格段に好転します!


【原文】
古の学者は能く人を容る。人を容るる能わざる者は識量浅狭なり。是を小人と為す。今の学者は見解累を為して人を容るる能わず。常人には則ち見解無く、卻って能く人を容る。何ぞ其れ倒置爾(しか)るか。〔『言志耋録』第13条〕

【意訳】
昔の学者は、広く人を受け入れることができた。人を受け入れることができない人は、見識が浅くて狭いと言わざるを得ない。こういう人を小人とよぶ。今の学者は特定の考え方に縛られて人を受け入れることができない。一般の人の方が余計な囚われがないので、かえって人を受け入れることができる。なぜ学んでいるはずの学者が一般人にも及ばないようなことになるのだろうか

【一日一斎物語的解釈】
真の学問をしている人は、人を受け容れることができるものだ。学んで、人を軽蔑するようになるのでは本末転倒である。


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