今日の神坂課長は、奥様の菜穂さんと会話をしています。
「ねぇ、勇。最近、礼が全然勉強しないのよ。勇からも言ってよ」
「何を?」
「何をって、決まってるじゃない。勉強しろってことよ」
「お前さ、勉強なんて強制したって真剣にやるもんじゃないぜ。勉強が必要だと思えば、自分からやるようになる」
「そんなこと言ってたら、どこの大学にも合格できないじゃない!」
「今は少子高齢化で子供の数は少ないんだから、どこかには入れるだろう」
「浪人したらどうするのよ?」
「働かせるよ。うちには予備校に行かせる余裕はないからな」
「それじゃ、高卒になっちゃうじゃない」
「ははは。ホウレンソウだかレンコンだか忘れたけど、そんな名前の政治家が同じようなことを言って、バッシングされてたな」
「N大を目指すなんて言ってたのに、最近はYouTubeばっかり見てるのよ」
「わかったよ。一度、礼と話してみるよ。あいつの志に火がつけられれば勉強するようになるだろうし、火がつかなければお手上げだ」
「ちゃんと火をつけてよね!」
「仮に火がついても、それがずっと灯され続けなければダメなんだよな。それに、その志を成し遂げるために、楽しく勉強するようになってもらわないとN大は難しいだろうなぁ」
「評論家みたいなことを言ってないで、しっかり背中を押してよね」
「そもそも大して勉強してこなかった三流大学出身の俺が言っても説得力はないと思うけどなぁ」
「勉強しなかったからこうなったという話をすればいいじゃない」
「失敬なやつだな! 『こうなった』ってどうなったんだよ?」
「三流大学を出て、小さな会社に入って苦労しているしがない課長さんかな?」
「お前だって、三流大学出身じゃないか。同じ穴の狢だよ」
「それは否定しないけど、勇の大学よりはちょっとレベルは上だったと思うな」
「後で後悔しないように、精一杯やれという話だけはしてくるよ」
「お願いします」
ひとりごと
仕事も勉強も、なぜそれを行うのかが明確になっていないと長続きしません。
まして、他人から強要された仕事や勉強の成果など、大した成果を生むことはないのです。
自ら志を立て、篤くそれを守り、楽しく実践する。
これが成功の秘訣なのだと一斎先生は教えてくれます。
【原文】
学を為すには、人の之を強うるを俟たず。必ずや心に感興(かんきょう)する所有って之を為し、躬に持循(じじゅん)する所有って之を執り、心に和楽する所有って之を成す。「詩に興り、礼に立ち、楽に成る」とは此(これ)を謂うなり。〔『言志耋録』第37条〕
【意訳】
学問を為すにあたっては、人から強要されるようではいけない。必ず最初に心に感じ奮起することがあって学問を始め、それを我が身に遵守し実践することで学問を続け、心をなごやかにして楽しみながら学問を成就するのである。『論語』に「詩に興り、礼に立ち、楽に成る(詩によって善を好む心を起し、礼によって道義心を確立し、音楽によって徳を成就する)」とあるのは、このことを言うのである。
【一日一斎物語的解釈】
学問も仕事も、他人から強要されているようではいけない。自ら篤く志し、常にその志を忘れることなく、心は冷静かつ穏やかに実践するならば、必ず志を成し遂げることができるものだ。