今日の神坂課長は、元同僚の西郷さんのご自宅にお邪魔しているようです。

「やっぱりサイさんの蔵書は凄いですね。本屋が開けるんじゃないですか?」

「『論語』とか中国古典に関する本は、だいぶ買い揃えたからね。この前、とある博物館に行ったときに、そこの図書室をのぞいたんだけど、中国古典に関する本なら私の所持している本の方が量も質も勝っているなと思ったよ。(笑)」

「すごいなぁ。だから、読書会であれだけ深い話ができるんですね」

「もちろん、J医療器械での経験も踏まえているからこそ、皆さんの心に届く言葉になっているんだと思うよ。御社には感謝しているよ」

「そういえば、この前『言志四録』を読んでいて、孔子が『私は言葉で教えることをやめたい』と言ったとあったのですが、さすがの孔子もキレちゃったんですか?」

「ははは。半分はそうかもね。弟子たちがあまりにも就職することばかり意識して、本当の学問を志さないのに嫌気がさしたのもあるだろうね」

「孔子ってそういうところが人間くさいですよね」

「でも、それは気持の半分以下の部分だよ。その言葉の真意は、言葉という手段を使わずに、伝えるということを究めていきたいということもあったと思うんだ」

「以心伝心ですか?」

「『不立文字』という言葉を知ってるかな?」

「ああ、以前に長谷川先生に聞いたことがあります」(第1941日参照)

「文字にならない言葉。つまりは宇宙の摂理とか大自然の法則のようなものを感じ取ることが、重要だととらえていたんだろうね」

「私には大きすぎてよくわからない話です」

「私も実際のところは理解できていないよ。やはり、孔子くらい学問を究めた人にして初めて言えることだろうね」

「常に足らざるを知る、という精神ですね?」

「そのとおり! それぞれのレベルに応じた目標というものがある。ひとつの山を制覇したら、次なる頂(いただき)を目指すという姿勢だけは真似したいところだね」

「あー、そうですね。目指す頂の高さは違いますが、その姿勢だけは真似できますね」

「さて、神坂君。今日は私の手料理を振舞うつもりなんだけど、良いよね?」

「はい。サイさんの料理の腕前は一級品ですからね。頂を究めた料理の味を堪能させていただきます」


ひとりごと

仕事にしても学業にしても、それを完遂するためには、「諦めない心」・「折れない心」が必要なことは言うまでもありません。

しかし、それだけではダメでしょう。

同じやり方を繰り返すだけでは、進歩は望めません。

なぜうまくいかなかったのかを真摯に反省し、試行錯誤しながら新しいやり方を模索していく。

つまり、「工夫」をするからこそ前進があるのです。

自分の実力に応じた工夫を凝らすことを忘れないようにしましょう!


【原文】
「予言う無からんと欲す」。欲の字の内、多少の工夫有り。「士は賢を睎(ねが)い、賢は聖を睎い、聖は天を睎う」とは、即ち此の一の字なり。〔『言志耋録』第38条〕

【意訳】
孔子は「私は言葉で教えることをやめたい」と言ったが、この欲の字のうちには、かなりの工夫がなされている。周濂渓が『通書』の中で「士は賢人になろうと願い、賢人は聖人に至ろうと願い、聖人は天と一つになろうと願う」とあるのは、みな欲と言う意味ではひとつであるが、その工夫はそれぞれ異なっている

【一日一斎物語的解釈】
人は皆、立場に応じた工夫を施し、人間力を高めていくべきだ。


試行錯誤