今日の神坂課長は、佐藤部長と一緒に「季節の料理 ちさと」に来たようです。

「ちさとママ、心配だね。また、東京ではCOVID-19の患者が100人を超えたって」

「神坂君、そうなのよ。また自粛要請が出たら、本当にお店を続けられないかも知れない」

「それは困るよ。このお店がなくなったら、俺はどこで酒を飲めばいいんだ?」

「大袈裟ね」

「でも、実際に困るよね。私もここにこれなかった一ヶ月は何か生活のリズムが取りづらかったからねぇ」

「あら、佐藤さん。ありがとうございます」

「ちさとロスってやつですか?」

「うん、きっとそうだ」

「あれ? ママ、なんでそんなに顔が真っ赤なの?」

「ば、バカね。暑いからでしょ。今日は日中は30度を超えたんだもん」

「ふーん」

「ちょっと、お料理をつくってきますね」

「ママ、可愛いですね。完全に照れてましたよね?」

「ははは、そうかな?」

「ところで、ママがいると聞きにくいことなのですが、我々がこうしてお店で飲み食いするのは、質素な生活とは言えないのでしょうか? 『言志四録に、『人間の欲望の中でもっとも大きなものは飲食への欲だ』と書いていますよね」

「毎日ではないし、ここで美味しい食事をして、仲間やママと会話するのは、決して華美な生活だとは思わないけどね。ここは、料理の値段も安く提供してくれているしね」

「そうですよね。下手な居酒屋より安く済みますしね」

「一斎先生が言いたいのは、飲み代で生活費を圧迫するようなことではいけない、と言っているんだよ」

「お小遣いの範囲内ならOKってことですね」

「そう、思うことにしない?」

「そうします!」

「ただし、私欲を抑えるためには、飲食を慎むということは、とてもよい鍛錬になるとは思うよ」

「たしかにそうですね。なかなか休肝日がつくれないのが今の課題です」

「でしょう?」

「お待たせしました! 今日は珍しいものが入ったわよ。富山湾のシラエビ。まずはお刺身でどうぞ」

「おー、うっすらピンク色できれいだね。まるで頬を染めたさっきのママみたいだ!」

「神坂、しつこい!! このあと、シラエビのかき揚げも出してあげようと思ったけど、佐藤さんだけにお出しするわね」

「なんでよー。俺も客だぞ!!」

「ごめんなさい、品切れなもので」

「ママ、ごめんなさい。かき揚げはこの世の食べ物で一番好きなの。食べさせて~」


ひとりごと

実は小生はお酒を飲まないので、飲食の飲の方でお金を使いすぎることはないのですが、食に関しては、ついつい食べ過ぎる傾向があります。

COVID-19の自粛のお陰で、多分体重は5kgくらいは太ったのではないでしょうか? (怖くて計っていませんが)

欲望をコントロールするには、身近で手っ取り早い飲食で鍛錬を積むのが良いようです。

しかし、実はそれが一番難しいのかも知れません!


【原文】
人欲の中、飲食を以て尤も甚だしと為す。余、賤役庶徒(せんえきしょと)を観るに、隘巷(あいこう)に居り、襤褸(らんる)を衣る。唯だ飲食に於いては則ち都て過分たり。得る所の銭賃は之を飲食に付し、毎(つね)に輒(すなわ)ち衣を典して以て酒食に代うるに至る。況や貴介の人は、飲食尤も豊鮮(ほうせん)たり。故に聖人は簞食瓢飲(たんしひょういん)を以て顔子を称し、飲食を菲(うす)くするを以て大禹を称せり。其の易事に非ざること推す可きなり。〔『言志耋録』第42条〕

【意訳】
人間の欲望の中で飲食への欲が最も甚だしい。卑賤な労役をしている人々を観察してみると、狭い路地に住み、身にはボロを着ていても飲食だけは分に過ぎたものを食べている。そして稼いだ日銭を飲食に使ってしまい、いつも自分の衣類を質屋に入れて酒とか肴の代金に充当している。ましてや高貴な人々の飲食はさらに豊富で新鮮なものばかりである。それゆえに、孔子は、粗食であっても道を楽しんだ弟子の顔回を称揚し、また自分の飲食を切り詰めて祖先の霊に供物を捧げた夏の禹王を賞賛したのである。ここからも飲食に対する欲望を抑制する事は容易でないことが理解できよう

【一日一斎物語的解釈】
食事を質素にすることは、自分の私欲を抑える上において、最も身近で最も難度の高いことである。


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