神坂課長が新美課長のデスクにやってきたようです。

「新美、面白そうな本を読んでるな」

「ああ、これですか。すごく勉強になりますよ」

「『営業という生き方』か、どんなことが書かれているんだ?」

「印象的だったのは、『営業という職業を選んだのではない。営業という生き方を選んだのだ』というフレーズです。要するに営業という仕事を自分の生き方にしなさい、ということが書かれています」

「へぇ、それは凄い言葉だな。俺も買ってみる」

「読み終わったら貸しますよ」

「いや、自分で付箋を貼ったり、書き込みをしたいから買うよ」

「神坂さん、やはり読書は大切ですね。この本を読んで営業という仕事がますます好きになりました」

「読書は心の栄養だと森信三先生が言っているらしい。人は腹が減ると耐えられないくせに、心が渇いていても気づかないそうだ」

「なるほど。そういう意味じゃ、私も今までは心が乾き切っていたかもしれません」

「俺の心なんか、もう少しで干物になるところだったよ」

「誰も食べたくない干物ですね」

「やかましいわ! そうそう、一斎先生も、『人間は栄養がなければ死んでしまう。しかし、その人間を動かしているのは心だから、心にこそ栄養を与えなきゃいけない』と言っている。ちなみに心の栄養分とは道理だと言うんだけど、そこはよくわかっていない」

「神坂さんらしいですね」

「それは褒めているのか? まあ、いいや。ただな、古典とか自己啓発の本を読むことがそれに当るのだと解釈しているんだよ」

「そうですね。私もそう思います。神坂さんが最近本をよく読んでいて、だんだん顔つきが変わってきたように思うんです」

「本を読む人の顔になっているだろう? 多田先生に言われたよ」

「たしかに、本を読む人の顔かもしれない。(笑)」

「しかし、読み終えて、『良い本だったで終わりではまったく意味がないよね。やはり実践で活学しないとな」

「そうですね。私は今まで、営業という職業を選んだと思っていましたが、この本を読んで考え方が変わりました。私は、自分の意志で営業という生き方を選んだのだと思います。

「おお、新美。お前の眼の中に、まるで漫画のように炎が見えるぞ。やる気マックスだな」


ひとりごと 

心というのものも、衣服と同じように、時々洗濯が必要です。

いつの間にか心にこびりついたケガレを落とすためには、読書が一番です。

どんな世界でも、長く一線で活躍している人は読書家だといいます。

それはきっと、読書によって定期的に心の洗濯をしているからなのでしょう。


【原文】
凡そ活物は養わざれば則ち死す。心は我れに在るの一大活物なり。尤も以て養わざる可からず。之を養うには奈何(いか)にせん。理義の外に別方無きのみ。〔『言志耋録』第47条〕

【意訳】
すべて生き物というものは養わなければ死んでしまう。人間の心も我が身に有する重要な生き物である。心を養うことには特に留意すべきである。ではなにをもって養えばよいのか。道理を明らかにして、各自の心をその道理に照らして見る外に別の方法は無い

【一日一斎物語的解釈】
胃袋を満たすだけでなく、心にも栄養を与えなければならない。心の養分とは物事の正しい道理に外ならない。


営業という生き方