今日の神坂課長は、石崎君と同行しているようです。

「どうしようかな、近くが空いてるけどなぁ。まあ、時間もあるし、遠くに停めるか」

「お、石崎も実行しているんだな」

「はい、課長から、私たちは病院にとってのお客様ではないので、入り口付近のスペースに車を停めてはいけないと教えて頂いてからは、なるべく遠くに停めています」

「さすがに16時ともなると、ガラガラだから、臨機応変に対応しても良いんだけどな」

「はい、でもそれを誰かが見ているかも知れません。正直に言って、雨の日は辛いですが」

「人間て変なプライドとか、他人の目を気にするところがあって、やれば良いことをやらなかったりするよな」

「え、どういうことですか?」

「たとえば、目の前にゴミが落ちていたとするだろ。それは拾ってゴミ箱に捨てるべきだよな。でもさ、なんか自分をアピールしているように思われる気がして、思いとどまったりする」

「ああ、そういうことですか。私もさっき、玄関前にかなり空きスペースがあったので、一瞬近くに停めてもいいかな、と思ってしまいました。こんなにガラガラなのに、遠くのスペースに停めるのは、運転が下手だからだと思われそうな気がして」

「助手席が俺じゃなかったら、どうだっただろうな?」

「あー、もし梅ちゃんなら、停めていたかも知れません」

「正直な奴だな。でもそんなもんだよな。人間って面白い生き物だよな。誰も見ていなければ、やらなくていいかと思い。誰かが見ていたら見ていたで、パフォーマンスだと思われたくないからと、結局やらない。(笑)」

「どっちにしても、やらない方を選ぶんですね。(笑)」

「そういうのを人心というらしい。一方、良いことを実行しようと思う心は道心と呼ぶ。本来はみんな道心をもっているのに、人心がその邪魔をするんだ」

「どうすれば道心にしたがって行動できるのですか?」

「簡単だよ。瞬間的に『これはやるべきこと』と思ったことは、断固としてやればいい。いろいろ考えるから人心が顔を出して、邪魔をしに来るんだ」

「じゃあ、さっきの私はギリギリ道心が勝ったんですね」

「俺のお陰だけどな。俺が横に居なかったら道心に負けてたんじゃないか?」

「そうですね。だけど、それは課長のお陰なのかなぁ?」

「それはそうだろ! そもそも、車を遠くに停めることを教えたのも俺だしな。俺のお陰でお前は道心を発揮できているんだな、間違いない!!」

「課長、それは言わない方がカッコいいですよ。そうやって、課長のなかにある人心が顔を出して、自画自賛するから、せっかくの行動の価値が下がってしまうんじゃないですか?」

「やかましいわ! でも、そうかも。反省します・・・」


ひとりごと 

善いことだとわかっていながら、それが実行できないとすれば、あなたは人心に侵されています。

他人の目を気にせず、善いことを素直に実行できるなら、あなたは道心を保つことができています。

他人の目を気にすると、道心が人心によって曇らされてしまうのでしょう。

常に確固たる自己を失わず、瞬間的に善を実行できる人であり続けましょう!


【原文】
知らずして知る者は道心なり。知って知らざる者は人心なり。〔『言志耋録』第56条〕

【意訳】
あえて知る努力をしなくても理解しているのが道心である。知ろうとしても実際に理解していないのが人心である

【一日一斎物語的解釈】
瞬間的に良いことだと思ったことはすぐに実行すべきである。さもないと我執や私欲がその行動を阻害してしまう。


gomihiroi