神坂課長のところに、営業1課の清水さんがやってきたようです。

「おっさん、ちょっといいか?」

「お前さ、人に相談するときに、そういう言い方はないだろう?」

「おっさんと俺の関係だし、今更、『神坂課長、ちょっとお話を聴いてもらえませんか?』なんて、言えねぇよ」

「たしかに、お前がそんな言い方をしてきたら、逆に怖いわ」

「だろ?」

二人は会議室に移動したようです。

「おっさん、俺も最近いろいろと本を読んで勉強するようになったんだけどさ、本によって書いてあることが違うだろ。何を信じれば良いのかわからなくてさ」

「マネジメントの本か?」

「うん。結構、たくさん読んだぜ」

「たぶん、全部正しいんだと思う」

「でも、真逆のことも書いてあるぜ」

「その人にとっては、という条件がつくけどな。要するにお前の性格に合ったマネジメントスタイルを見つけるしかないということだよ」

「俺の性格?」

「例えばお前は、後輩がミスをするとかなり厳しくやり込めるだろ? 上司にそれをやられたら、部下はたまったものじゃない」

「おっさんもどっちかというと同じタイプじゃねぇか?」

「そうだよ。俺もそこにやっと気づいたんだ。部下の少々のミスや短所には目をつぶる。それよりも、長所を見つけて、伸ばしてあげることを意識しているんだ」

「なるほどな。ミスがあっても見て見ぬふりをするってことか?」

「そうだな。ただし、自分に対しては厳しくする。こっちにミスがあったと気づいたら、相手が後輩だろうとすぐに謝ることが大切だと思う」

「後輩に頭を下げるってことか? 会社に入ってから一回もやったことないぜ」

「だいたい、お前の場合は先輩にも頭下げることなんかないもんな」

「ああ、たしかにな。(笑)」

「笑ってる場合か! 清水、本当にマネジメントがやりたいなら、そういうことも改善していく必要がある。それでもやりたいか?」

「おっさん。俺は今までずっと一匹狼できたけどよ。最近、寂しさを感じるんだよ。だれも俺のところには相談に来てくれない。おっさんもあんなに喧嘩っ早くて短気だったのに、今では雑賀も石崎もおっさんには相談しているじゃないか」

「清水・・・」

「それって、おっさんがマネジメントをやるようになってからだよな?」

「たしかにそうかもな。俺もちょっと前までは、後輩から相談されることなんて稀だった。大累ですら、相談なんかしてくれたことはなかったな」

「おっさんが羨ましいなと思うようになってよ。それで、俺もマネジメントをやってみたくなったんだ。いろいろ教えてくれよ」

「だったら」

「ああ、わかった、わかった。神坂さん、いろいろと私にご指導をお願いします!!」


ひとりごと 

本日の章句を読んで思い出すのは、同じく『言志四録の名言、

春風を以て人に接し、秋霜を以て自ら粛む。

です。

他人の少々の欠点には目をつぶり、清濁併せ呑むつもりで接する。

しかし、自分の過ちに気づいた際には、即座に訂正し謝罪する。

これができれば、自然と人が集まってくるのではないでしょうか?


【原文】
「悪を隠し善を揚ぐ」。人に於いては此(かく)の如くし、諸(これ)を己に用いること勿れ。「善に遷り過を改む」。己に於いては此の如くし、必ずしも諸を人に責めざれ。〔『言志耋録』第64条〕

【意訳】
『中庸』に「悪を隠し善を揚ぐ」とある。他人に対してはこのように対応するのがよいが、自分に対してはよくない態度である。『易経』に「善に遷り過を改む」とある。自分に対してはこのようにすべきであるが、必ずしもこれを他人に当てはめて責めることはしない方がよい

【一日一斎物語的解釈】
他人に対しては清濁併せ呑むことを意識せよ。ただし、自分に対しては、過ちを認めたら即座に訂正すべきである。他人を責めるのは、まず自分を正して後である。


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