外出中の神坂課長の携帯電話が鳴りました。
「もしもし、ああ山田さん、どうしたの?」
「梅田君の担当先でクレームが発生しました。院長先生がかなりご立腹のようです」
「マジで? 何をやったの?」
「元々は納品時に器械が作動しなかったということらしいんですけど、院長に『すぐ対応しろ』と言われて、梅田君は『今日中に何とかするのは無理です』、と即答してしまったらしいんです」
「そりゃ、怒るわな」
神坂課長はすぐに現場に向い、無事にクレームを収めることができたようです。
「神坂課長、ありがとうございました。あんなに怒らせてしまったので、もう収拾不能だと思っていましたが、さすがですね」
「何も難しいことはしていないさ。お客様の気持ちをよく考えてみれば、自然と何をすべきかが見えてくるものだよ」
「そうなんですか?」
「梅田はバイクが趣味だったよな? もし、新車のバイクが届いて、さあ試運転だと思ったら、そのバイクがうんともすんとも言わなかったとしたらどう思う?」
「それは、めっちゃがっかりするでしょうね」
「そんなときに、『営業から今日はもう遅いんでちょっと対応は無理です』なんて言われたら、どうする?」
「たぶん、その営業マンの胸倉をつかんでしまうと思います」
「だろ? でも、お前はそれをやってしまったんじゃないか?」
「ああ!」
「昔、俺がまだ若手の営業マンだったころ、俺のミスで大きなクレームになってしまったことがあった。そのときに、平社長が謝罪してくれたんだ」
「社長自らですか?」
「うん。あの頃は社員数も今よりずっと少なかったからな。そのときにこう言われた。『物事の道理に窮められないものはないし、どんな変化にも対応できないということはない』ってな」
「どういう意味ですか?」
「俺もそう聞いたら、『自分で考えろ』って言われた。それで、俺が導き出したのが、さっき言ったことさ。お客様の気持ちをよく考えれば、どんなことにも対応できるし、問題も解決できるってことだ」
「社長が言ったことの意味は、そういうことなのですか?」
「さあな。でも、そう腹に落とした。それからはクレームはほぼ解決できるようになったから、それでいいと思っている」
「わかりました。今後はもっとお客様の気持ちをよく考えて、常にお客様の立場で物事を考えてみます!」
「頼むぞ、梅田。今後はそう考えて行動してくれるなら、今回のクレームはお前にとっては必要不可欠だったことになる。ポジティブに捉えよう!!」
「はい!!」
ひとりごと
物事の本質を見誤らなければ、どんな道理も窮めることができ、どんな変化にも対応できるのだ、と一斎先生は言っているのでしょう。
営業の仕事をしていると、多くのクレーム対応の場面にぶつかります。
しかし、お客様の気持ちになって考え、言葉を選べば、十中八九は解決できます。
小生もそれを理解してからは、クレーム対応はお客様と良い関係を築くチャンスだと思えるようになりました。
【原文】
窮む可からざるの理無く、応ず可からざるの変無し。〔『言志耋録』第68条〕
【意訳】
究め尽くせないような道理はなく、対応できないような変化もない。
【一日一斎物語的解釈】
顧客本位で考え行動すれば、解決できない問題はなく、対応できない課題もない。