今日のことば

【原文】
事は固より自ら為に謀りて、而も迹(あと)の人の為にせしに似たる者之れ有り。戒めて之を為すこと勿れ。固より人の為に謀りて、而も或いは自ら為にせしかと疑わるる者之れ有り。嫌を避けて為さざること勿れ。〔『言志耋録』第79条〕

【意訳】
本来は自分のために計って行った事が、その形跡としてまるで他人のために行ったかのように見られることがある。これは自ら戒めてこういうことのないようにすべきである。また、本来は他人のためを思って行ったことが、まるで自分のためにしたかのように疑われるときもある。人からの嫌疑をさけて行動しないようなことがあってはならない

【一日一斎物語的解釈】
常に利他の心で行動することを意識し、仮に偽善だと言われようとも、思いに少しも利己心がないなら、行動を変えてはならない。


今日のストーリー

今日の神坂課長が喫茶コーナーの前を通りかかると、外をぼんやりと見つめている雑賀さんを見つけたようです。

「おい、雑賀、どうしたんだ。黄昏モードじゃないか」

「あ、神坂課長。参りました。俺、久々に落ち込んでます」

「何があった? よかったら話してくれないか?」

「聞いてくれますか?」

「もちろん。あ、ちょっと待ってな」

神坂課長は缶コーヒーを2つ買ってきたようです。

「ほら、これでも飲みながら話そうぜ」

「ありがとうございます。実は昨日、仕事終りに書店に寄ったんです。そこで、すごく真面目そうな中学生くらいの男の子が本を万引きしているところを発見したんです」

「おお。それで?」

「その子に声を掛けました。そしたら、その子が急に走り出したんです。事を荒げるつもりはなかったのですが、このまま逃がすわけにはいかないなと思って追いかけました。それに気付いた書店の店員さんがその子を捕まえたんです」

「よかったじゃないか」

「いや、その後なんです。私も店員さんとその子と一緒に、奥の部屋に通されて事情を聞かれたんですけどね」

「うん」

「そのときに、その子に言われたんですよ。『おじさんに見つからなければ、この本をばあちゃんに届けることができたのに!』って。泣きながらね」

「どういうことだ?」

「その子のおばあちゃんは、病院に入院していて、余命がもう少ししかないそうです。そのおばあちゃんが大好きな雑誌の最新号の発売日が昨日だったらしいんです」

「なるほど」

「ただ、その子は父親がいなくて、母親がその子を含めた3人の兄弟を育てているらしく、とても貧乏なんだそうです。俺も同じような境遇だったから、なんか余計なことをしてしまった気がして・・・」
雑賀さんも目に涙を浮かべています。

「雑賀、それは違うぞ!」

「え?」

「どんなに貧乏でも、万引きは駄目だ。お前が見つけたことで、その子は万引きの未遂で済んだ。もし、万引きに成功していたら、それがクセになっていたかも知れない」

「・・・」

「その子が何と言おうと、お前は正しいことをした。いいか、雑賀。それがその子のためになるんだ。お前は別にその子を捕まえて、警察に表彰してもらおうなんて思ったわけじゃないだろう?」

「それは、もちろんです!」

「お店の損失を防ぐことができたし、その子も未遂で済んだ。お前はやるべきことをやったんだ。誰が何と言おうと、それが利己心ではなく、世の中のため、利他の心で行うことなら、絶対に実行すべきだ!」

「神坂課長、あの子、わかってくれますかね?」

「すぐにはわからなくても、いつか必ずお前に感謝する日がくるさ」

「そうですね。俺も貧乏で何度か万引きをしようと思ったこともありました。でも、やろうと思うたびに母ちゃんの悲しむ顔が目に浮かんで、できなかったんです。今はそれでよかったと思っています。あの子もこれに懲りてもう万引きはしないで欲しいです」

「大丈夫だよ。同じような境遇のお前に見つけてもらったのは偶然じゃない。その子は、きっともう万引きはしないよ!」


ひとりごと 

人の心は自分の想い通りにはなりません。

善かろうと思ってやったことが、時には相手を傷つけることもあります。

しかし、それはやり方や言い方の問題であって、その思いに間違いはないのです。

次はやり方や言い方を工夫して、世のため、人のために再び行動できる人でありたいですね!


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