今日のことば

【原文】
居敬の功は最も慎独に在り。人有るを以て之を敬するならば、則ち人無き時は敬せざらん。人無き時自ら敬すれば、則ち人有る時は尤も敬す。故に古人の「屋漏にも愧じず、闇室をも欺かず」とは、皆慎独を謂うなり。〔『言志耋録』第91条〕

【意訳】
常に敬する心(敬い慎む心)を保つ工夫は慎独にある。人が居るときだけ慎むならば、人がいない時には慎まなくなるであろう。人が居ない時に慎むならば、人の居る時には当然のように慎むはずである。 たとえば『詩経』に「屋漏に愧じず(人が見ない所でも恥じる行動をしない)」とあり、程子が「闇室を欺かず(暗い処でも良心を欺くことをしない)」と言うのは、みな慎独のことを言っているのである

【一日一斎物語的解釈】
人を敬する心を養う最善の工夫は、慎独にある。人が見ていないときに、他人を敬い、自分自身を慎むことができたなら、そこに「敬」の心は完成する。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、A県立がんセンターの多田先生のところにいるようです。

「先生、さっき階段に紙屑が落ちていたのですが、他人が見ていないときでも落ちているゴミを拾うというのは難しいことですね」

「誰も褒めてくれないからな。結局、見返りを求めているうちは、慎独を実行することは難しいんだ」

「たしかに、人間って誰かに褒めてもらうのが好きですよね」

「そうだな。しかし、褒めてもらうということも、自分の行為の見返りとして要求しているわけだよな。その気持ちを捨てられるかどうかだよ」

「やっぱり独りを慎むというのは、並大抵のことじゃないんですね」

「他人の目を意識しなくならない限り、慎独は積めないからな」

「他人の目を意識せず、見返りを求めず、ただ自分が正しいと信じた道を行く。カッコいいけど、難しいですねぇ」

「そうやって独りを慎む工夫を続けていると、人の悪い点より良い点が見えるようになる。そうすれば、その人を敬う気持ちが生まれるだろう」

「はい」

「そうやって自然に周囲の人に対する敬意を表すようになると、いつしか自分自身が尊敬される人になるんだよ」

「なるほど。私が部下から尊敬されないのは、自分自身が皆に敬意を払っていないからなんですかね?」

「そういうもんだよ。他人を尊敬できない奴を誰が尊敬すると思う?」

「そのとおりですね」

「たとえ後輩であろうとも、自分より能力が高い奴がいれば、それを認めて敬意を払うべきだ。特に医者というのは、科学者であり、技術者でもある」

「はい」

「そういう人間を束ねていくには、技術力だけでなく、人間力を高めていく必要がある。それには慎独が最適なんだよ。しかし、勘違いするなよ。慎独というのは、人が見ていないときに特別なことをするわけではない。そばに人が居ようと居まいと、普段通りに行動することが重要なんだ」

「はい。私はやっぱり人目が気になりますが、これからはそこからの脱却をテーマに過ごしてみます」

「頑張れ、と言いたいところだが、俺は今のままの馬鹿で真っ直ぐなお前が好きだけどな」

「先生、せっかく精進しようと思っているのに、せっかくの気勢を殺がないでくださいよ~!」


ひとりごと 

ストーリーの中にも書きましたが、慎独というのは、何か特別なことを実施するわけではなく、人前であれ独りであれ、常に変わらずに自分のやるべきこをとやり続けることを言うのでしょう。

他人の目を気にして生きることや、見返りを期待して生きていては、人生の主体を他人に譲ることになってしまいます。

人生の主役は自分であることを心に刻み、自分の意志で人生を切り開きたいですよね。


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