今日のことば

【原文】
坦蕩蕩(たんとうとう)の容(かたち)は常惺(じょうせいせい)の敬より来り、常惺惺の敬は活潑潑(かっぱつぱつ)の誠より出ず。〔『言志耋録』第92条〕

【意訳】
心が平らかで伸びやかな様子というのは、常に心が覚醒して明らかとなっている敬の気持ちが築き上げ、常に心が覚醒して明らかな敬とは心が生き生きと息づいている誠から生じている

【一日一斎物語的解釈】
周囲の人からみて、泰然としている人というのは、常に人を敬い、自らを慎む心が形となってあらわれているのだ。そして、その敬し慎む心は、自らの誠から生じているのだ。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、N鉄道病院名誉院長の長谷川先生を訪れたようです。

「先生、ご無沙汰しておりました。この時期にどうかとは思いましたが、お顔を拝見したくで、お邪魔させていただきました」

「ははは。こんな老人の顔を見ても仕方がないでしょう?」

「いえ、先生のお顔を拝見すると、なぜか心が落ち着くんです」

「ほぉ、私の何が神坂君を落ち着かせるのかなぁ?」

「実は、佐藤一斎先生の『言志四録』の中に、『傍からみてゆったりとしている人というのは、敬の心がそうさせていて、その敬の心というのは、己の誠から生じている』というのがあったんです。これを読んだときに、真っ先に私の脳裏に浮かんだのが長谷川先生でした」

「それは過分な褒め言葉だね」

「先生は、それこそ世界中のドクターから尊敬を集めていらっしゃいますが、先生自身も常に人を敬い、慎みの心をお持ちなんですよね?」

「そうだねぇ。私が得意とするのは、大腸癌に関する診断と治療の研究だけだよね。とても狭い範囲のスペシャリストなんだ。それ以外に関しては、素人だからね。他の分野で素晴らしい活躍をされている人をみれば、素直に尊敬の気持ちは湧いてくるもんだよ」

「やっぱりそうなんですね。私みたいなちっぽけな人間は、相手が何かで優れていると聞いたら、その人を尊敬する前に、『俺だって、この分野なら負けないぞ』という競争心が先に出てしまうんです。だから、素直に人を尊敬できないんですよね。でも、結局そのせいで、人から尊敬されないんだ、ということに気づかされたんです」

「なるほどね。素晴らしい気づきだよ。やっぱり素直に人を観る目を養った方が、人生はうまくいくもんだしね」

「はい。もう一つ、一斎先生から学んだことは、そういう風に他人を尊敬できる人というのは、結局、自分に嘘をつかない人だということです。それが誠ということなんですね?」

「神坂君は成長したねぇ。私は、人間という生き物は、いくつになっても成長できるということを君から教えてもらったよ。40歳を超えてからの神坂君の成長には目を見張るばかりだよ」

「ありがとうございます。やっぱり長谷川先生に褒められると、めちゃくちゃ嬉しいです。結局、褒めてもらいたくてここに来たのかなぁ? 見返りを求めているようでは、まだまだですね。(笑)」


ひとりごと 

誠という言葉は、死後になりつつあるのでしょうか?

私にも誠という名の親友がいますが、最近の若い人にはこの「誠」という名前は聴かなくなりました。

人間の徳目の根源は、誠にあります。

誠とは、言葉を変えれば忠信となります。

つまり、他人にも自分にも嘘をつかないことを言うのです。

誠を失えば、人類は滅びてしまうのではないでしょうか?

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