今日のことば
【原文】
人心の感応は磁石の鉄を吸うがごときなり。「人の情測り難し」と謂うこと勿れ。我が情は即ち是れ人の情なり。〔『言志耋録』第117条〕
【意訳】
人の心が何かに感応するのは、まるで磁石が鉄を吸い付けるようなものである。「他人の心は測りかねる」と言ってはいけない。私の心がそのまま他人の心なのだ。
【一日一斎物語的解釈】
他人の心を理解できないのは、自分の心と向き合っていない証拠である。
今日のストーリー
今日の神坂課長は、競合商談を失注して落ち込んでいる梅田君を慰めているようです。
「そんなに落ち込むな。お前にとってはこの悔しさが良い経験になるんだよ」
「もう少し時間が経てばそう思えるかも知れないですけど、今は無理です」
「まあな。それはそうだろう。しかし、落ち込むのは今日一日限定だぞ。そして、なぜこの商談を取れなかったのかをしっかり考えてみてくれ」
「でも、思うんですけど・・・」
「なんだ?」
「他人の心なんて、所詮理解できないですよ。私はドクターでもないですし」
「本当にそうかな?」
「え?」
「俺はそうは思わない。たしかに俺たちは医者ではない。しかし、物を買う経験は何度もしているはずだ。お前もこの前、高いギターを買ったと言っていただろう?」
「はい。私にとっては、かなり思い切った買い物でした」
「ドクターにとって、今回の内視鏡のような医療機器を購入するというのも、それと同じだよ。やはり、思い切った買い物だと思うんだ」
「あー、そうですね」
「まして、今回は修理更新ではないんだろう。使おうと思えばまだ使える機器を更新するわけだ」
「はい」
「そういう気持ちをドクターの立場に立って考えてみれば、提案の仕方、プレゼンの仕方、背中の押し方など、どこかに問題があったと気づけるんじゃないか?」
「・・・」
「他人の心を理解できないのは、自分の心と向き合っていない証拠だ。自分自身が物を買う身になって考えることは、とても大切だぞ」
「そうですね」
「しょうがねぇなぁ!」
「?」
「お前、焼肉が好きだったよな?」
「三度の飯より焼肉が好きです!」
「バカ、焼肉も飯だ!」
「あっ」
「ははは。今日は焼肉を食わせてやるから、落ち込むのはそこで終了!」
「ありがとうございます!!」
「そのかわりちゃんと反省もするんだぞ!」
ひとりごと
他人の心を理解するのは、簡単なことではありません。
しかし、相手も人間である以上、自分の心とそれほど乖離しているわけでもないでしょう。
相手の立場をよく理解し、その立場なら自分はどう考えるかと想定してみれば、大きく間違った答えは出ないのではないでしょうか?